数年前のこと。
富田林市から少しはずれた舗装のない砂利道を、真夜中、近くの大学生のE君たちが車で通りがかった。
あたりは漆黒の闇。月明かりもなく、目に映るものといえば、ヘッドライトが照らす行く手にのびる道と、その左右に延々と流れる笹藪のみである。と、ヘッドライトがずっと先の笹藪の中に白く光るものを照らし出したので、スピードを落とした。
見ると、それは真っ白な、人の片手である。
この手の持ち主は漆黒の闇の中、仰向けに笹の中に寝転がって、宙をつかむように手を握りしめている。
「おい、あれは手やろうか?」
「確かに手や」
「手や、手や」
車の中が騒然としてきた。
車はどんどんとその手に近づくが、近づくにつれだんだんと怖くなってきた。
もし、これが本当に人の手だったら大変だ、と一瞬思ったが、その時はとても車をとめる勇気はなく、E君はアクセルを踏んだ。この時はもう、一刻も早く笹藪から遠ざかることだけをひたすら考えたという。
翌朝になって、E君たちはふたたびその場所に行ってみたが、手はなかった。また、とても人が寝転べるような場所ではなかったという。