善行寺参りの黒い影(長野市元善町) | コワイハナシ47

善行寺参りの黒い影(長野市元善町)

善光寺参りに行った小林さんの話だ。

娘と息子の三人で、長野で日帰り旅行を楽しんだときのことだ。

日程の最後に善光寺へお参りした。

小林さんは夫と仲が悪く、今回の旅行も何の相談もせずに子供を連れて行くことにしていた。夜遅く帰る夫の食事など心配はしていない。

子供も中学生と高校生。もう手がかからなくなってきていた。

色々思いあぐねることがあり、この善光寺まで足を伸ばしたのだった。ご利益なり良縁なり、今の夫と別れることを考えて、手を合わせた。

善光寺の山道は賑やかな出店があり、子供たちはそこに夢中になっていた。

「もうバスの時間になるから、早くお参りしよう!」

と子供たちをせかして、本堂に入る。

真ん中に煙がもうもうとしたお焚き上げがある。そこに行こうとしたとき、

ドン!

と小林さんの肩に誰かがぶつかった。サラリーマン風の男のようだった。

あまりに激しいぶつかり方で、体がよろけるほどだった。

「お母さん、大丈夫?」

子供二人が声をあげた。

「大丈夫、今の人、ぶつかっておきながらお礼もなかったね」

と、小林さんはその男が去って行った参道のほうを見た。

それらしい人は誰もいなかった。

そもそも、この日は雨がしょぼしょぼとふる平日で、参拝の人自体がまばら。参拝客はほとんどいなかった。

「あれ? 今ぶつかったのに、どこに行ったのかしら?」

と小林さんがつぶやくと、

「お母さん、誰もぶつかってないよ」

と、子供がおそるおそる言った。

「そんなはずはないわ、かなり痛かったし。見てないだけでしょ」

と言いながらも、小林さんは少し怖くなった。

とにかく手を合わせて、ご利益ある置物を撫でて、一通りのお参りを済ませて帰った。ぶつかった場所の肩が妙に重い。お参りをいくらやっても治らなかった。

その後、夫が事故を起こしたり、失業したり、小林さんも追突されたりと、ろくなことがなかったそうだ。善光寺にお参りしたというのに。

だが良い事もあった。夫婦仲が良くなったのだ。夫は転職したおかげで早く帰るようになり、笑顔も出るようになった。

「あのときの黒い影は、あのあと起きることを教えに来たような気がしますよ。『前触れ』っていうか……、私も夫も車にぶつかったりぶつけられたりしたんでね。でも離婚とか、死ぬほどのことは無くて良かったけれど」

と小林さんは話してくれた。悪霊ではなかったようだ。

善光寺はかつて甲斐の武将・武田信玄が、ご本尊が欲しくて長野に攻め入り、川中島の決戦になったとも言われるほどの霊験がある寺でもある。

武家が支持した善光寺は、今も当時と変わらず静かに鎮座している。

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