妊婦画ホテル(長野県信濃町) | コワイハナシ47

妊婦画ホテル(長野県信濃町)

野尻湖に近い場所にあるラブホテル、ホテルスイート(仮名)で起きた話である。現在は廃墟となり、悲惨な内装になっている。

まずもってここに近づかない方がいいという噂が立ってからは、だれもホテルスイートで肝試しなどやらなくなった。

以前はホテル内に飾られている落書きの絵が不気味だと評判になった。それは、妊婦の大きなおなかに包丁が刺してある絵だった。

落書きが異様である上に、ここにはある黒い噂があるのだ……。

林さんは仲間とホテルスイートに肝試しに出かけたことがあった。高校を卒業して車の免許を取ったら、まず心霊スポットに行くのが仲間内の流行りでもあった。

友達二人でホテルの近くに車を路駐して、懐中電灯を持って入った。

「何も、夜に来なくてもよくねえ?」

「夜の方がスリルあるって」

そうやって二人でくっつきながら恐る恐る入った。

一階に駐車場があり、そこは真っ暗で何も見えなかった。

中に入り、妊婦の落書きの絵があるというところまで入った。

噂では、妊婦の裸の絵に卑猥な言葉、しかも「不倫をしたいから電話をください」など、エロ小説ばりのことが書いてある。どうやら同じ人間が、ホテルが廃墟になってから、あちこちの部屋に落書きを描いているようだ。

林さんたちは、一部屋に入っただけで足がすくんだ。

懐中電灯の弱い光の中に見えるものは、

ボロボロの壁紙。

垂れ下がった天井。

色が変わり果てたベッド。

そして、両足首。

「ひっ!」

もう一度ライトを当てる。変わり果てたベッド、それだけだった。

「見間違いか」

林さんの心臓が異様に早く打ち始めた。さっきの足首、何なんだよ。ベッドで人が仰向けに寝ている感じだったよな、確かにそんな感じだったよな。

ゾクゾクした寒気まで襲ってくる。表面じゃなく冷たいものを覆いかぶさったような寒さが背後から襲ってくる。

「寒気がしてきた、やっぱり、もう出ようか」

友達が黙ってついてきている。

「何だよ、何か言えよ」

「いや、今言うのはやめる」

「なんでだよ、言えよ」

「……。ついてきてるから」

「だ、誰が?」

「たくさん。女。男もいるな……」

「どうすんだよ?」

「絶対振り向くなよ。振り向いたらヤバイから」

そう言うと、友達は強く林さんの背中を叩いた。何度も叩く。

押し出されるような空気圧があった。もう他の部屋を見ることはできなかったし、噂の妊婦画も見ることができなかった。

ホテルの外に出て車に乗ると、友達が更に言った。

「この車すぐにお祓いに出したほうがいい」

冷静に言うので、それ以上何も言えなくなり、林さんはキーをまわして車をスタートさせた。

しばらく行くと友達が言った。

「野尻湖には行かない方がいい」

そっち方面に向かっていたが、Uターンして戻った。またさっきのホテルの前を通ったら、一階の駐車場に人が立っていた。

林さんはぎょっとしてそっちを見ようとすると、

「見ない方がいい」

友達の言うままに、前だけ見て走った。

二キロほど行った後にやっと落ちついて、話をし始めた。

「さっき背中叩いたの、何だったんだよ?」

「お前がビビってるから、あの部屋に溜まってた霊が一斉についてきたんだよ」

「だから叩いたのか、結構痛かったぞ」

「叩いた分、霊が憑いてたんだよ」

林さんはあのときの背中にずしりと来た寒気を思い出していた。

「結構叩いたよな」

「十体はいたからな」

「ベッドで足首見たんだけど、あれも幽霊か?」

「あのベッドに三人寝てたよな」

「何で、野尻湖行くのダメだったんだ?」

「道の先に待ってる女の霊がいたんだ。多分湖についていって、事故を起こすような悪霊に見えたから、湖に間違って転落する車はそういうの連れてるんだよ」

と静かに答えた。

林さんの友達は入った時から、霊が渦巻くようにして部屋に待っているのが見えたそうだ。ベッドには仰向けで寝ている霊体が三人、風呂場や壁に貼りついてじっと見ているのが五人はいたそうだ。

そして、その部屋の中にいればいるほど、廊下や窓から霊が入り込んで、怖がる林さんの背中にしがみついていたという。

このホテルでは、強姦された女性が自殺したり、駐車場ではホームレスがリンチに遭って放火されて焼き殺された、等の事件があったという。

その真相は明らかではないが、ホテルスイートに霊体がはびこっていることだけは確かなようだ。

後で、林さんは心霊スポットに出かけた大学生が帰りに事故に遭い、死んだというニュースを見た。崖から落ちたらしい。

霊を乗せてしまったのだろうか?

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