白骨温泉(長野県松本市) | コワイハナシ47

白骨温泉(長野県松本市)

乗鞍高原のほど近くに、「白骨温泉」という秘湯があるのをご存知だろうか。

字面だけを見るとなんだかおどろおどろしいが、「白骨」は「はっこつ」ではなく、「しらほね」と読む。

名前の由来は諸説ある。

単純硫化水素の湯は白く濁っているため、そこから名づけられたという説と、浴槽などに炭酸カルシウムが白くこびりつくことがあり、それが白骨のように見えるので、そこから名づけられたという説がある。

骨まで白くなる、という温泉にありがちな慣用句からネーミングされたのではないかと私は思っていたのだが、実際のところは不明だ。

温泉地としての歴史は古く、鎌倉時代から続いているとのこと。山間の隠れた温泉として数多の文人墨客に愛されてきたという。

今(二〇一八年)から十年前の冬のこと。

松本市内に住む銀行員のR子さんは恋人と白骨温泉に出掛けた。

ふたりは長野県各地の温泉巡りを趣味にしていた。宿泊せずに風呂と食事だけを愉しんで帰ったそうだ。

温泉宿に着くと入浴料を払った後、彼氏と一旦分かれる。

すぐに女湯の暖簾をくぐって服を脱いだ。宿は古かったものの、露天風呂が有名なところで、R子さんはとても期待していた。

引き戸になっている風呂の扉を開ける。─が、誰もいない。

内湯のシャワーで躯からだを洗い、野趣溢れる露天風呂に身を浸す。開放的で噂に違わず素晴らしい湯質だった。周囲の岩や庭木には雪が降り積もり、なんともいえない風情がある。

長湯をして露天風呂から上がり、内湯の扉を開ける。やはり誰もいない。

──これって貸し切りみたいね。なんて贅沢なのかしら。

髪を洗おうと、持参したシャンプーで頭を洗う。そしてシャワーの湯を曇った鏡に掛けた、その瞬間。

自分のすぐ背後に、男性の裸の腰が映っていた。

──えッ、なんで……?

一瞬、間違って男湯に入っていたのではないかと思ったが、そうであれば彼氏は女湯に入っていることになる。ふたりして間違えるなどということは、どう考えてもありえない。

──でないとすると、変質者……?

振り返るのが怖かった。が、ずっとこうしているわけにもいかない。泡だらけの頭で、恐る恐る首を廻してみた。すると──。

誰もいなかった。

内湯のなかは自分ひとり。立ち上がって露天風呂の方にも出てみたが、男性はおろか、他の客の姿はどこにもなかった。

もし誰かひとがいたとしても、女性であるはずだ。しかし、自分が見たのは間違いなく男性の下半身だった。それも、成人の男性──。

「泡だけ流してすぐに風呂を出ました。彼氏は一時間後にようやく。私がその話をすると、彼氏は真っ赤に火照った顔で、『おまえ欲求不満なのかよ?』なんていうんですよ。失礼しちゃいますよね」

それから二年ほど経った頃、その温泉宿は残念ながら畳んでしまったという。

だが、白骨温泉自体はまだ健在だ。観光客は比較的少なく静かな温泉地なので、長く逗留したい方には向いているだろう。

興味のある方は一度訪れてみてはいかがだろうか。

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