死を呼ぶ火の玉(長野県松本市) | コワイハナシ47

死を呼ぶ火の玉(長野県松本市)

登山を趣味にしているKさんは、山で火の玉を見たことがあるという。

北穂高小屋でのことだった。

南岳の大キレット(山の鞍部のV字状に切り込んだ岩稜帯)に火の玉が出現し、複数の宿泊者が小屋の外に出て目撃したそうだ。二時間近くに亘って出現したので、最初騒いでいた者たちも、さすがに飽きてしまったのか、部屋に戻ってしまったという。

またある日の深夜のこと。

Kさんが就寝中にふと尿意をおぼえ、トイレに行こうと起き出したとき、なにげなく窓ガラスのほうを見ると、小屋のすぐ外で青い火の玉がぐるんぐるんと宙を回っている。早くなったり遅くなったり、ゆらゆら揺れているかと思うと水平に移動したりと、動き方が一定していない。

次の瞬間、Kさんが見ていることに気づいたかのように、窓ガラス目掛けて飛んでくる。しかし、ぶつかる音はしない。ただ窓に当たっては離れるという行動を繰り返している。

最初は眼の錯覚かと思ったが、まぶたをこすっても変わらず飛んでいるので、

「おい、ちょっとアレ見てみろよ!」

隣に寝ている友人を叩き起こしながら、大きな声で言うと、

「……ったく、なんだよ、こんな時間に」

不服そうに起き上がった友人も、外の異様な光景を目の当たりにして、にわかに放心したような顔になった。ふたりは無言のまま見守っていたが、三十分ほどして火の玉はどこかに消え去ってしまったという。

その二日後のこと。

近くで遭難事故が起きたという報せが小屋に入った。

北穂へ至る縦走ルートを歩いていた男性が、なんでもないところで足を滑らせて落下し、即死したというのである。後日、墜死したのは、火の玉を見た晩に同じ小屋に泊まっていた登山者であったことが判明した。

死んだ登山者と火の玉はなにか関係しているのではないか、とKさんは思った。しかしあのとき、まだそのひとは生きていたのだから、火の玉は死を予期するものだったのではないか──そうKさんは考えたという。

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