松本市内に住む会社員Tさんの体験談である。
七年前の晩秋の、ある日の夕方のこと。
小学一年生になるTさんの娘が学校に忘れ物をしたというので、「すぐに取りにいきなさい」とTさんの妻は叱った。
学校は自宅から徒歩で五分ほどの位置だったので、十五分もあれば戻ってくるだろうと、妻は思っていたという。
ところが一時間経っても帰ってこない。妻は不安になって学校に電話を掛けた。
娘が帰ってこないことを知らせると、教員総出で校内中を探すことになった。捜索開始から二十分ほど経った頃、ある教員が校庭の真ん中で立ちすくむ女子生徒を見つけた。Tさんの娘に間違いなかった。
捜索から三十分が経過した時点で警察に通報することになっていたが、寸前に見つかったので、それ以上は大ごとにはならなかった。
娘を抱き寄せながら、
「どうしてすぐに帰ってこないの? ママ、すごく心配したじゃない!」
妻が大きな声でいうと、娘は意外な言葉を口にした。
「学校へいったら、扉が閉まっていて開かなかったの。だからウサギ小屋にいって、ずうっとウサギを見ていたんだよ」
しかし、娘が見つかったのは校庭の真ん中だった。校内にはウサギ小屋があるが、校庭からはだいぶ離れた理科室棟の前で、しかも数ヶ月前に伝染病で一匹残らずウサギは死んでいた。それに陽が落ちてもいないのに、扉が閉まっているというのも、ありえない話だ。教員たちもそれを聞いて首を捻っている。
どうして校庭になんかいたの? と訊いても、「わかんない」と、娘は答えるだけだった。
ちなみに学校が建つ以前、校庭がある場所には古い大きな霊園があったそうである。