苔むした石(長野県北佐久郡) | コワイハナシ47

苔むした石(長野県北佐久郡)

Fさんという、とある会社の社長から聞いた話である。

一九七〇年代の中頃のことだという。

その日、Fさんが旧軽井沢の別荘地近くの高台になっているところを歩いていると、突然よろめいて、転がりながら落ちてしまった。大したけがはしなかったが、眼の前に幅五十センチほどはありそうな苔むした大きな石があったので、これに頭をぶつけていたら大変だったと青くなった。

するとその時、石になにかが刻まれている気がして、手で苔をむしってみると、たしかにひとの手によって彫られた文字のようなものが刻まれていた。風化していて殆ど読めないが、かろうじて「居士」という文字だけはっきりと読めた。その瞬間、これが墓石であることに気づき、Fさんはぞっとした。周囲を見渡すと、似たような大きな石がごろごろと転がっている。いずれも古いもののようで、文字はうっすらとわかる程度だったが、顔を近づけてみると、やはり墓石で間違いなかった。

後日、その話を知人にしたところ、旧軽井沢の鬱蒼とした林を宅地として開発したとき、古い墓地を潰してしまったということだった。土地を開発した業者のなかには、そういった苔むした墓石を土地の境界線代わりに使ったところもあったという。

地域の古老の話によれば、林のなかにはかつて寺のようなものがあったというので、廃仏毀釈により廃寺になった跡だろうとFさんはいう。

またその付近では、血にまみれながら抜刀する古武士や首のない甲冑姿の幽霊の目撃談もあるそうで、戦いに散った者たちの墓地も林のなか、ひと知れず転がっていたのかもしれない。

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