Kトンネルの中からにらみつける女(岡山県備前市) | コワイハナシ47

Kトンネルの中からにらみつける女(岡山県備前市)

これは私が心霊動画を製作していた時の話だ。

その心霊動画とは、岡山の心霊スポットを地元アイドルと探索するというシンプルな内容で、私が割り振られた仕事は、場所の選出と撮影時のアイドルのケアだった。アイドルのケア? 仕事内容を監督さんに聞くと、

「資金が無くてアイドル一人にしかオファー出来なかったんだよね。もしも、彼女に『怖い!』なんて言われちゃって逃げられたらもう終わり。残りはスタッフのおじさんしか居ないよ」

「そういう事でしたか。で、ケアというのは?」

「君にはアイドルに、『ここは本当は心霊スポットでも何でもないんですよ!』って言い続けてもらう。要は恐怖心を取り除いてもらう重要な役なんだよ。怖すぎると中には逃げ出しちゃう子も居るからね」

(心霊動画なのに恐怖を取り除く? 矛盾しているだろ)

アイドルのケアというのは建前で、要はアイドルに嘘をつき続けるという事。しかも心霊スポットを選ぶのは私なので、自分で用意した心霊スポットを「ここは何でもない場所」と説明しなければならない。まるで道化師の様な役割だった。

「君に全てかかっているからね! よろしく!」

「はぁ……」

私は「仕事、仕事」と自分を言い聞かせて、当日の撮影に臨んだ。

「よろしくお願いしまーす!」

事務所の駐車場に高い声が響いた。

「彼女が今回一緒に心霊スポットを回ってくれる、岡山出身のアイドルAさんです!」

監督さんが紹介するとAさんが意気込みを始めた。

「私、心霊とか怖いもの苦手なんですけど、最後まで頑張ります!」

正直言うと、Aさんは化粧が濃く、アイドルと言うには少し歳を取り過ぎている様に見えた。同行スタッフのテンションがみるみる落ちているのを感じた私は、その悪い雰囲気を変えるために、彼女に企画説明だと言ってロケ車へと誘導した。

「今回Aさんには朝までに二箇所の心霊スポットを探索して頂きます。まずこれから挑戦して頂くスポットはE公園です。ここでは公園内の奥に設置されてある女子トイレから女の子の声がすると言う噂があります。先行隊がすでに公園で待機しているので、まずはこちらへ向かいましょう」

「はい、わかりました!」

元気よく返事をする彼女に一抹の不安を感じた。大丈夫だろうか? 彼女の返事からは恐怖という感情が全く感じられない。「怖がらせるな」とは言われたが「全く怖がらない」と言うのも問題である。道中、彼女の恐怖心を煽るために怪談をいくつか話したのだが聞き流すばかり。彼女は鏡に映った自分に夢中で、化粧を顔に厚く塗りたくるばかりだった。

数十分後、E公園に着いた私たちは先行隊と合流して早速撮影を開始した。

始まってみるとやはりプロ。車の中の彼女とは別人なのか? と思うほどスムーズに撮影は進んでいった。

「もしかして、あれが女の子の声が聞こえるって噂の女子トイレですか?」

「はい、そうです」

「近づきたくないですぅ」

と言いつつ近づいていくA、完璧だった。さりげない場所の説明、怖がりながらも嫌々進行する様子。心霊ビデオでよく観るパターンそのものだった。小慣れた彼女の進行を見て、つつがなく撮影を終えられそうだと安堵した。

「はいOKです! いやぁAさん! 完璧だったよ!」

「本当ですか? 地元の番組で結構こういった企画多くて慣れてたんですよね!」

監督とAさんの会話を聞くと、どうやらAさんはかなりの現場をくぐり抜けてきたベテランで、今まで身体を張る数々の企画にチャレンジした経験があるらしい。

「この調子で最後の心霊スポットへ行きましょう!」

監督はご機嫌だった。

ロケ車に乗り込んだ私は、次の心霊スポットの説明を始めた。

「次の心霊スポットはKトンネルになります。このトンネルでは女性の霊の目撃例が多発していて、かなり危ない場所だと……」

ところがAさんはすでに素の彼女に戻っており、私の説明には「うん」だとか「へぇ」などの気の抜けた返事をするばかりで、彼女はまたもや鏡の虜になっていた。

(大丈夫だろう。Aさんはプロだしカメラが回ると人が変わる)

私はAさんを信じて次の目的地まで休ませてもらう事にした。

数時間後、Kトンネルに着いた。

Aさんを見ると、化粧で疲れてしまったのか鏡を持ったまま眠っていた。(器用なものだ)彼女を起こした私は先行隊と合流してから説明を始めた。

「Kトンネル内ではAさんに手持ちカメラを一台持って頂いて、自身の表情を撮影しながら進んで頂きます。その少し後ろから我々スタッフも付いて行きますので安心して下さい」

「私が先頭……」

流石のAさんもこれには驚いたのか、動揺を隠せずにいた。

そして二十四時を回った直後、撮影は開始された。

「我々はKトンネルと言う心霊スポットに来ています」

Aさんが手を指した方向にカメラが動くと、心霊トンネルKが姿を現した。

「それじゃ行きますね」

Aさんがトンネル内に消えて行った。我々もそれを追う様に後を付いて行ったのだが、スタート直後にもかかわらず急にAさんが踵きびすを返して、こちらに戻って来た。

「無理……」

監督が駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

「中に何か居ます」

「えっ、何が?」

「分かりません。でも女性の声が……きゃあぁああぁ!」

Aさんは急に叫び出すと、ロケ車の方へ走り去ってしまった。

カメラは彼女を撮ろうと追いかけたのだが、女性スタッフに止められてしまった。

Aさんが奥で嘔吐してしまったらしい。

それから数十分。監督の説得は続いたのだが、Aさんを使ってこれ以上の撮影は出来ないという判断が下った。

「どうします?」

「Aさんが怖がってトンネルから出て来た所まで撮れているから、そこから繋ぐ方法を考えないとね。早瀬、なんか案はある?」

「Aさんが断念した恐怖のKトンネル。Aさんが聞こえたと言う謎の女性の声とは一体……。その答えを探すため我々だけで再びKトンネル探索を続行する事にした。って言うのはどうですかね?」

「まぁ、それしかないよね。でも誰が行く?」

「早瀬行けば? お前幽霊とか好きじゃん」

「いや、好きですけど、流石にここは……」

煮え切らない返事をしてしまった所為か、私がAさんに代わって先導する事となった。私はAさん同様、手持ちカメラを片手に持ってトンネル探索を始めた。

中は空気が変わった様に冷たく、こんな場所を女の子一人で歩かせていたのかと思うと後悔した。步く度に「ぴちゃぴちゃ」と、どこからか水滴が落ちる音がして我々の背筋を凍らせた。中ほどまで進んだ頃だろうか。後方からカメラマンが何やらこそこそ話し始めた。

「今見えた? そうだよな。何か映ったよね?」

あまり良くない話の様だ。

「どうかしました?」

「勘違いだとは思うんだけど、早瀬の肩あたりに何か見えてさ」

「本当ですか?」

「ごめんごめん。見間違いだと思うからさ、後で確認しよう」

それからは何の異変もなく、トンネルを通り抜けてロケ車へ戻る事が出来た。

「早速、さっきのテープを見てみようか」

私の肩あたりに何か見えた。と言う箇所までテープを進めて確認を始めた。

「ここほら、ここ!」

カメラマンが興奮気味にモニターの画面を突いた。

「ここに黒いのが!」

画面を見ると私の後ろ姿が映っており、カメラマンがいう様に、確かに身体の前方から左肩の方にかけてニュッと黒い影が出て来ていた。

「すげぇ……」

驚きすぎて、私の口からはそんな陳腐な言葉しか出てこなかった。

「これさぁ、早瀬が持ってたカメラ見たら全部映ってるんじゃない?」

「確かにそうだな。確認してみよう」

私の身体を前方から撮影していた小さな手持ちカメラに数人の大人が群がった。

カメラに映った私が話し始めた。

「いやぁ、怖いですね。こんな事なら来なきゃ良かったな」

と愚痴を言い終えた瞬間、カメラが何かに遮られたのか真っ暗になった。

「お前も見えた? そうだよな……」

と動画は続いて行く。

「さっきの箇所、もう一回確認!」

黒い影を確認するために巻き戻しを行い再度確認を始めた。

同じ様にカメラに映る私が話し始めた。

「……こんな事なら来なきゃ良かったな」

「ここからスロー!」

画面の中の私がゆっくりと動き始めた。

「この後だ……」

スタッフの息を飲む音が聞こえた。

その直後、画面下からゆっくりとせり上がってくる黒い影が見えるではないか。

その影が徐々に上がるに連れてスタッフの表情が曇って行く。と言うのも、その黒い影は、Aさんがリタイアする理由となった女性の顔にしか見えなくなっていったからだ。せり上がってゆくにつれて目、鼻、口と徐々に輪郭があらわになって行き、気が付くとこちらを睨みつける女性の顔が画面いっぱいに映っていた。私たちは画面から誰一人目を離す事が出来ず、数秒間時が止まった様に何も言葉を発する事なく、ただ黙り込んでしまった。

「これマジ……だよね」

沈黙を破った監督の言葉に我々は一斉に頷いた。

その後、その心霊動画を岡山の地方番組で放送する運びとなったのだが、急に監督の会社が倒産してしまい件くだんの動画も行方不明となってしまった。苦労して撮影した、あの動画はどこに行ってしまったのだろうか? スタッフも散り散りになってしまい、誰も行方が分からないという。ただ、私は一生忘れられないだろう。こちらを睨みつけるあの女の顔を。

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