日本人形の怪(岡山県某市) | コワイハナシ47

日本人形の怪(岡山県某市)

人と話す時にはちゃんと目を合わせて。という話をよく聞く。

しかし、話している間、目をじっと見すぎても相手はあまりいい気持ちにはならないだろう。

ただ、目線というものがコミュニケーションをとるにあたって重要なものであることは言うまでもない。

言葉を使わずとも目だけでも会話は出来るもので、目というのは物を見ること以外の意味でも、我々が生きていくうえで無くてはならない器官である。

しかし、絶対に見たくない、目を合わせたくないというものが、この世にはあるのだ。

これは岡山市の専門学校生から聞いた話だ。

彼女がまだ学校に入りたての頃、夜に布団の中でうつらうつらしていると金縛りにあった。

疲れが出てしまったのか、体が全く動かない。

辛うじて動く眼球を動かして、ふと部屋の隅を見ると、黒い塊を見た。

ぬらぬらと蛍光灯の明かりを反射する黒い塊。三十センチ程の高さから床にかけてばらけてゆくその先端は細い繊維になっており、それはどうやら長い髪の毛のようだった。

髪の毛の隙間から白い布と足らしきものが見える。足には足袋と草履を履いているようだ。

人形だ。

異様に髪の毛の長い日本人形だ。

あるはずもない日本人形がちょこんと後ろ向きに立っていたそうだ。

怖い! 気持ち悪い!

そう思いながらも目を離せずにいると、

キッ……。

木の擦れるような音を小さく立てて、人形の首が少し動いた。

そんな馬鹿な!

キキッ……キキリッ。と少しずつ動いている。間違いなくこちらを向こうとしている。

訳がわからない。なぜ私の部屋に人形が? ひとりでに首が動くとはどういうことか? どうしてこんな目に……

動転する彼女をよそに、首は回り続ける。さらには同時に声も聴こえてきた。

「コッチ、ミテ」

合成された音声のような無機質な響きだったという。

首はゆっくりと、しかし確実にこちらを向きつつある。

ギギギ……

「コッチ、ミテェ」

横顔。白い頬が見えた。

ギギギギギ……

「ミテ、ミテ、ミテェ」

もうだめだ。こちらを向く。目が合う。無駄な抵抗と思いつつも固く目を閉じた。すると不思議と身体が軽くなったという。

……金縛りが解けたのか?

ふっと目を開けると、そこにあったはずの日本人形がない。

良かった!

安心して寝返りをうつと、目の前に日本人形の後ろ姿が。

安心しきっていたその刹那、鼻先の数センチ先に日本人形が現れたのだから、彼女の驚き様はいかばかりか想像に難くないだろう。

こういった場合には叫び声すら枯れるのだという。しゃっくりに似た息が数度漏れただけであった。

そのすぐ後にある程度の理性を取り戻せたことは奇跡といっていいだろう。

そうだ、後ろ姿、後ろを向いているから大丈夫……。

早鐘のように打つ鼓動を押さえようと、ゆっくり深い呼吸をした次の瞬間、

彼女のその吐息で、人形の髪がサラリと靡なびいた。

長い髪の奥に、白い顔があった。

後ろを向いてると思っていた人形は、実は正面を向いていて、髪の毛を前に持ってきていたのだ。

「オモシロイネー!! オモシロイネー!! アハハハハハハハハ!!」

頭の中で無機質な笑い声が響き渡り、彼女の意識は遠退いていった。

気がつくと彼女は学校の医務室のベッドにいた。

混濁する記憶を必死に整理していると、同じクラスの生徒が入ってきた。

「もう、起きていいの?」

聞けば校内の階段から転落して頭を強く打ったらしい。

話を聞くと額を少し切っていたそうだが、心配するクラスメイトたちに彼女は「大丈夫!」と言ってフラフラと医務室へ歩いていったそうだ。

しばらくしてクラスメイトの一人が様子を見に行くと、ベッドに横になり寝息を立てていたので、そっとしておいたのだと。

では、自室で起こったあの出来事は、夢なのか?

彼女には階段から落ちた記憶や医務室へ歩いた記憶は無いらしい。が、確かに額にはバックリと裂傷ができて、ジクジクと血を滲ませていた。

「私、あの人形の顔を今でも忘れられません」と、彼女はいう。

長い黒髪を分けて現れた白い着物の人形、随分大人びてはいたが、薄く目を開いたその顔は彼女自身によく似ていたそうだ。

「額に……」

それだけ言って彼女は長い前髪をかき分ける。

時間の経過とメイクで随分薄くはなっていたが、そこにごく細い肉の畝を私は見た。

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