Yトンネル(岡山県美作町) | コワイハナシ47

Yトンネル(岡山県美作町)

これは弟の友人であるAくんが体験した話だ。

Aくんは美作町から岡山の大学に通うために、実家から片道一時間の距離をバイクで通学していた。

「行ってらっしゃい!」

一人暮らしを始めた友人に話を聞くと、

「ご飯炊くのが面倒でいつもコンビニ弁当だよ」

「家賃払う為にバイトを結構やってる」

などとあまり良い話を聞かない。だったら多少遠くても実家から通学という方が良いだろうという考えに至った。それに加えてAくんはバイクが好きだった。Aくんの家族が住む柵原やなはらという場所は、美作町の中でもかなり郊外の地区で、数分に一台車が通るかどうかというくらい車の交通量が少ない。そのため、通学時の早朝ともなると柵原はAくんの貸し切り状態となるのだ。バイクの運転が好きなAくんには誰にも邪魔されない早朝の通学が至福の時間となっていた。ただ一箇所を除いては。

「はぁー」

ため息をつくAくんの目の前には、通学時にいつも通り抜けているYトンネルが。

AくんはYトンネルが苦手だった。ただ、このトンネルを通らなければかなりの遠回りとなるため、Aくんは嫌々通り抜けていたのだ。

苦手な理由は心霊など感覚的なものではなく、単純にトンネルの見た目。

Yトンネルはかなり歴史が古く、手彫りで掘ったのか内面の壁がコンクリートではなく岩肌なのだ。

(気味悪っ。はよう抜けよう)

Aくんはハンドルを握ってスピードを上げた。

トンネルの真ん中ほどまで進んだ時、急にバイクに異変が起きた。

「あれっ? スピードが落ちとる」

バイクの調子が急に悪くなったのか速度が低下し、ついには完全に停止してしまった。

「よりによって、何でここで止まるんなら! 動けっちゃ!」

何度もエンジンをかけ直したが、動き出す気配がない。

「マジかよ……」

Aくんはバイクを押してトンネルを抜ける事にした。

「重っ……」

Aくんが乗っていたのは中型バイクで、重量は軽く百キログラムを超えている。

(カッコ付けて中型免許なんか取得するんじゃなかった)

そんなよく分からない後悔をしていると、急にバイクが軽くなった。

「えっ?」

何かがおかしい。タイヤに勢いがついたとかそんなレベルの話ではないほどに、バイクはどんどん速度を上げて行った。

(後ろから誰かが押しとるようにしか思えんぞ!)

Aくんは恐る恐るバイク後部へと振り返った。

「何もおらん……」

バイク後部には誰もいなかった。だが、バイクはどんどん進んでいく。

この異常な出来事にAくんは一度バイクを止めようと考え、ブレーキを握り足にグッと力を込めたのだがバイクは止まらない。

「何でじゃ! 全然止まらん!」

横に倒そうと力を入れても、バイクの進行に逆らって後ろに力を入れようとも一向に止まる気配がない。

「マジで何ならこれ! 頼むけん止まれっちゃ!」

すでにバイクはAくんが耐えられなくなるほどに速度を上げていた。

「何で止まらんのなら! 押すの止めてくれえっちゃ!」

だが後ろを振り向いても誰も居ない。ただ確実に何者かがすごい力でバイクを後ろから押している感覚があった。

息絶え絶えだったAくんは最後の力を振り絞って、

「止めろおぉぉー!」

と大声をあげて、もう一度力一杯踏ん張った。

すると突然、バイクはまるで力が抜けた様に速度を落とし、ノロノロと進んだのち横転した。

「はぁ……はぁ……はぁ……止まっ……た」

気が付くとそこはトンネルの出口。Aくんはかなりの距離を走っていた。

Aくんは息を整えたのち、横転したバイクを起こして恐る恐るエンジンをかけるとブロロロ……と正常に動き出した。

「さっきのは何だったんなら……」

どれだけ考えても答えは出てこない。Aくんは次の日からトンネルを避けて、遠周りのルートで大学へと通学する事にした。

後日トンネルで起きた奇妙な話を家族に話すと、九十歳を越える大祖母が興味深い話を教えてくれた。

「あのトンネルを掘る時に何人もの職人さんが土砂で生き埋めになったらしいんよ。もしかしたら、トンネルの中でバイクが故障したのを見た職人の幽霊さんが『土砂に巻き込まれるぞー』ってバイクを押してくれたんかも知れんなぁ」

話し終えると大叔母は「感謝感謝」と合掌して、トンネルの方へ向かって頭を下げた。

Aの大叔母が言うように、土砂で生き埋めになった幽霊が人を助けようとバイクを押したとしよう。だからと言ってトンネルが怖くなくなるという訳ではない。霊は霊だ。Aはその後も変わらずトンネルを避けて通学したという。

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