黒い納屋(岡山県津山市) | コワイハナシ47

黒い納屋(岡山県津山市)

学生時代、私には友達と呼べる人がいなかった。早生まれの私は背が低かったため、よく同級生にからかわれていた。そんな中、同じクラスのAから急に家にお呼ばれした。(なぜ私が?)多少不思議には感じたが、それとは別に、ある理由がAのお誘いを受けるかどうかを悩ませていた。

その理由は、彼の家に「黒い納屋」と近隣住民から呼ばれている気味の悪い建物があったからだ。

噂では、夜遅くAの家の近くを散歩すると黒い納屋から人のうめき声が聞こえて来るとか、そのうめき声の正体は幽霊なんじゃないかとか。

いずれにしても、黒い納屋は小学生の私には恐怖の対象でしかなかった。

だが、この機会を逃すともう一生友達が出来ないという気がしたので、私はAの家に恐る恐るお邪魔する事にした。

約束した日、私は集合の時間より少し早めにAの家に着いた。

それは黒い納屋を外から塀越しに確認して、見慣れれば恐怖も引いて行くかもしれない。そう考えたからだ。だが黒い納屋は近くで見るとかなり大きく、あの噂は本当なのかもしれない。と嫌な事ばかりが頭に浮かんだ。

数分間眺めていると

「もう来とったん? 早く入りなよ!」

とAが庭先でウロウロしていた私に声をかけて家に案内してくれた。

敷地に入っても黒い納屋が気になって何度も振り返っていると、

「やっぱり気になるよな。あれはね……」

とAが黒い納屋について説明を始めた。

「あの黒い納屋には神様が居るらしいんよ。それで毎朝うちの親がご飯持っていったりしとって。もうおじいちゃんとかひいじいちゃんとかより前の代からずっと大事にしとるんだって。気持ち悪いよな」

当時の私には、それがどれだけ奇妙な事か完全には理解出来なかったが、ただAも同じ様に感じていたんだ。という事に安心した。

Aの部屋に入ると、同級生のBが数時間前から遊びに来ていたらしく、まるで自分の家のように漫画を読みながらくつろいでいた。

「おぉ、お前来たんか! 来てくれんかと思っとったけど!」

Bは身体を起こすと、

「誰にも言わんとって欲しいんじゃけど、今日はある遊びをしようかと思っとんよ! それはな!」

そう言いながらBは持参したカバンに手を伸ばすと、中からライターとガス缶を取り出した。

「昨日TV観よったらガス缶のガスに火を点けとったんよ。絶対に真似しないで下さいって言われたらやりたくなるよな!」

キラキラした目でこちらを見てきた。Aも私と同様何も聞かされていなかったのか動揺していた。

私たちはBを必死に止めようとしたのだが、彼は一人盛り上がって、私たちには止める事が出来なかった。

私は、いよいよなぜ自分がここに呼ばれたのか分からなくなり、Bに質問した。

「何で僕を呼んだん?」

「観客よ。お前だったら誰にも言わんと思ってな」

私は友達としてではなく、観客として呼ばれていた事にとてもショックを受けた。私たちはBに言われるがまま準備を始めてバケツの中に水をためていると、

「ごめんな。Bくんにお前呼んで来いって言われた時に、何で呼ぶのか聞けば良かったよな。学校で声かけるし、今度は二人で遊ぼうや」

私は「うん」と返事をしたかったのだが、口を開けると嬉しさで泣いてしまいそうで、Aくんの言葉に無言で頷いた。

その時、庭の方からBの叫び声が聞こえた。

「うわぁあ!」

まさか……。私たちは急いで庭へ向かった。

すると案の定、件の黒い納屋に火が付いていたのだ。

古い木材だからか、火はあっという間に黒い納屋を飲み込んでいった。

Aは半べそをかきながらBに詰めよった。

「お前、何やっとんなら!」

「どうしよう……」

「叱られるの俺なんだぞ!」

「人殺してしもうた……」

「お前謝れや!」

「火の中から人の声が聞こえる……」

私とAは、Bの様子がおかしい事に気が付いた。

「中に人居るのに火点けてしもうた! うわぁ! うわぁ! って納屋から叫び声が聞こえる!」

私たちには納屋の中から声など何も聞こえなかった。

結果的に納屋は全焼したが、近隣の方が消防署に通報してくれたおかげで、家や山にも燃え移らず鎮火し、もちろん納屋の燃え後から死体も見つからなかった。そうこうしているとAの両親が帰ってきた。

「何しとるん、あんたら! 怪我がなかったけんええものの、最悪の場合だってあったんで! ご両親には秘密にしといてあげるけん、今日はもう帰りんちゃい!」

私たちはAのご両親にこっぴどく叱られて、その日は帰る事になったのだが、納屋に火をつけたBの姿を見るのはその日が最後となってしまった。

というのも、それから数日後、Bは自殺してしまったのだ。

噂に聞くと、Bはあの日家に帰るなり急に自室にこもると、

「声が聞こえる! 俺が殺したんじゃ! 声が聞こえる!」

と叫び出したのだという。そして連日続いた奇行に業を煮やした両親が扉をこじ開け部屋を確認するとBが亡くなっていた。

私はその噂を聞いた瞬間、あの日燃えさかる黒い納屋の前でBが言っていた事を思い出した。

「中に人居るのに火点けてしもうた! うわぁ! うわぁ! って納屋から叫び声が聞こえる!」

絶対にあの時のことが原因だ。納屋の中にはBが言うように、本当に何か居たのかもしれない。

そう考えると私は怖くなってしまい、Bが自殺したきっかけになったのかもしれない黒い納屋の話を聞きに行った。怯える私にAの両親はお茶を出してくれて、ゆっくりと黒い納屋について語りはじめた。

「あの黒い納屋には神様がおってな、神様って言ったら、みんなええ神様思い浮かべるかもしれんけど、あそこの中におったのは悪い神様。私らの家系は代々あの神様が黒い納屋から出ん様にお祀りさせて貰っとったんよ。毎朝配膳とかのお世話とかしたりして」

驚く私に対して、ご両親は微笑みながら話を続けた。

「私らも最初は気持ち悪いなぁとか思っとったけど、声とか聞いてしもうた日には信じざるを得ないしな。もしかしたら、Bくんが聞いたのは私らも聞いたその悪い神様の声かもしれん。また私らは納屋建ててお祀りさせて貰うけん。安心してや」

私はここで聞いた話を誰にも言わないでおこうと決めた。

言ってしまうと、私にも悪い神様の声が聞こえてしまいそうで怖かったからだ。

それから十年ほどが経ち、私はあるイベントでこの話を語る事になった。

私も大人になり、あれだけ脳にこびりついていた恐怖も時間と共に薄れていたのかもしれない。

人の家のことなので、一応話すための許可を取っておこうと久しぶりにA宅に電話をかけた。応答してくれたのはお母さんだった。

「早瀬です。お久しぶりです、お母さん」

「あぁ、あんたか」

「黒い納屋の話を人に語りたいんですけど、良いですかね?」

「そんなの勝手にしたらえぇ。そんな事より、あんた知らんのん?」

「えっ、何をですか?」

「うちの子の居場所。連絡付かんのんよ。あんた仲良かったよな?」

「ちょっと待って下さい。Aくん行方不明なんですか?」

「連絡がもう数週間取れてない。あの子急に『人の声が聞こえる。人の声が聞こえる』言うて、おかしくなってしもうて。あんた、ほんまに何も知らんのん!?」

まだお母さんの必死な声が受話器越しから聞こえていたのだが、動揺していた私には全く聞き取れなかった。あの黒い納屋を燃やした三人が一人、また一人と奇妙な声を聞いてしまった後に自殺、あるいは行方不明になっている。

次は私の番?

私にはまだおかしな声は聞こえていない。

シェアする

フォローする