美しい村(岡山県 中央部 山奥) | コワイハナシ47

美しい村(岡山県 中央部 山奥)

岡山の地方伝説になっている村がある。

その村の場所は、とある山の中腹にあるそうだ。普通は低地や平地、もしくはせいぜい山のふもとに集落というものはできる。

水田を作るには豊富な水と水の利便性と平坦な大地が必要だからだ。

だが、その村は山の頂上近くに突然現れるという。数軒の集落なので、一見林業でも行われているのかと思えるが、集落内にはそういった切りだしの材木などが置いてあるわけでもないという。壇ノ浦から逃げた平家が山奥に集落を作ったとも言われるが、その村の不思議な点は、

「二度とその村にたどり着けない」

ことだそうだ。

山にキノコや野草を取りに入った良子さんの話だ。

いつもは中腹くらいしか進まないのに、その日は竹藪や木々が邪魔せずに「こちらへどうぞ」と言っているかのように道が開けていたそうだ。

すいすいと山を登っていくと、見晴らしの良い場所に出た。峠だ、と思って良い景色を眺める。すると、その辺りに家が数軒見えた。

藁ぶき屋根の造りの家で、それも里にあるようなしっかりした作りだったという。

良子さんの住む集落も山のふもとにあるが、頂上にこんな集落があるとは思っても見なかった。村のモンに教えなきゃなと思いながら、その集落の奥へ奥へと進んでいった。

すると、家から一人の老人がニコニコして出てきた。

「どうかしましたか?」

「いやあ、初めてここまで来たもので、帰り道がわからなくなって」

と思わず答えた。小さな村の住民というものは、至って知らない人が訪れるとさっと隠れたり、排他的に対応したりする例が多いが、この老人は人懐っこそうな笑顔で話をしてくるのだ。

「この村は、他にもどなたか住んでおられんのかな?」

と聞くと、老人はうなずいて、後ろに手招きをした。三十代から七十代くらいに見える数名の男女がゾロゾロと出てきた。

「こんにちは!」

元気にニコニコとあいさつをしてくるのだ。

(この人が、この村の長老なんだなあ)

と、良子さんは直感で思った。そして、おしゃべり好きな良子さんが、天気や農作物の話などをしている間も、住民たちはニコニコして話を聞いている。

邪魔立てするような人もおらず、ずっと良子さんはしゃべり続けた。最近は夫も息子夫婦も面倒臭がって自分の話を聞いてくれないので、この村の人たちが笑顔で聞いてくれることがとても嬉しく、気が付いたら西に日が落ちかけるまで、話を続けていた。

帰りに、何人かが果物を持ってきた。桃やブドウだった。(いい農産物がこんな山奥で育つのね)、と感心しながら、ありがたく受け取った。

「奥さん、もう日が落ちる。暗くなると道がわからんようになるけん、いぬるがええよ(帰った方がいい)」

四十代くらいに見える一人の男性が言った。それまで話しかけてきた人たちは、地元の訛りがあまりなかったので、その言葉ではっと我に返った。

「そうじゃね、ほんではいぬらにゃいけんで、いぬります(帰ります)」

と地元の言葉で返すと、長老をはじめ、全員がみんなが別れを惜しんでいる様子だった。

「また来ます!」

と背後にいる住民に向かって言ったが、なぜかそれには反応がなかった。聞こえていなかったのかもしれない、と思いながら、日暮れの道を急いだ。

ふもとの家に付くころには、もう辺りは真っ暗で、山を見上げても明かり一つ見えなかった。

(電気が通ってない村なんかなあ。だから誰も気づかないわけか)

そう自分に言い聞かせて、その晩はすぐに寝てしまった。

あくる日、もらった桃やブドウが大変に美味しかったので、家にあるお米を何合か持って、お返しに行こうと思った。

だが、夫に昨日の山の話をすると、

「そんなところは知らんわ。山の上に藁ぶきの集落? 狐にでもばかされたんじゃろ。もう行かん方がええ」

三代以上山のふもとで暮らした家系の夫が知らないという。

隣の家の奥さんにもこの頂上の村の話をしてみた。奥さんは忙しそうに庭で洗濯物を干していて、忙しそうで振り向かずに答えた。

「私も昔聞いたことがあるわ、どこの山か知らんけども、そういう心の清らかな人しか住んでない村があって、みんな道に迷ってそこにたどり着くんだけども」

「私は、昨日は別に迷わずにいけたんじゃけど」

「それがな、その人が言うには迷っているうちにそういう集落にでるんじゃ。でな、次にそこに行こうと思うと、二度と行けんのじゃと。どうしてもたどり着けんのじゃと」

「それなら、もう一度行ってみるわ、奥さんも行かへん?」

奥さんは振り向かずに首を横に振った。

「それが、その人も必死で探してたんじゃ。で、結局、戻って来んかったそうじゃ。後で探しに行ったら、山の中で遺体となって見つかったんじゃ。大人の神隠しに会うそうじゃ。無理に探したらいかん」

良子さんはその話を聞いて、少し寒気がした。

「その村の人は、どんな人じゃったんじゃ?」

背中を向けていた奥さんは少し間を置いて、振り向いた。

「こんな顔じゃ」

ニカーっと笑い、目が垂れ下がり、口元はかなり吊り上がっていて、まるで狐のような顔だった。

「ひえっ!」

良子さんは、思わずつんのめって尻もちをついた。

その顔は、確かに昨日の村の人たちの顔つきにそっくりだった。

ニコニコして聞いていたが、あの笑顔は……狐だったんだろうか?

それからすぐに、昨日の道を上がっていった。だが、どこまで行っても道に竹が倒れていたり、木がとおせんぼして、山の頂上に上ることができなかった。

そして、あの美しい村には二度と行くことはできなかった。

隣国にこのような昔話が言い伝えられている。

ある山奥には「桃源郷」があるという。そこでは天国の様に人が優しく、桃や美味しい食べ物がいつもたくさん実り、満足しない人がいない場所だ。

ところが、そこから帰った人が、もう一度何とかして行こうとすると死ぬ目に遭うそうだ。桃源郷は幻の都、しかし、ちょっとした天国なのかもしれない。意識が戻ったから、現世にたどり着けるのだと。

もう一度、あの美しい村に行こうとするとき、本当にたどり着けた者は、もうこの世の者ではない、あの世の者になっているのだろう。

たどり着けなくて正解なのだ。

現代はナビゲーションシステムがあるので、こういった美しい村の伝説もそう聞かなくなった。

もっとも、ナビで探して見つけられるような場所でもないだろう。

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