T君とH君が、滋賀から京都への帰り道。別になんということもない自動車道でのこと。
明け方近く県境を通ったが、運転をしていたT君が、
「あれぇ、俺、眠たいんかなぁ」
などと言う。
「なんや、しっかりせいよ」
と助手席で寝ていたH君が、むっくりと起き上がった。
すると、そのH君も前を見ると妙なことを言う。
「おい、この車、外車みたいやなぁ、なんか変やで」
「……やっぱりそうか?」
なにがあったのか?
T君は、運転しているうちに、だんだん自分が縮んでいくような錯覚に陥ったのである。なにか変だなと思って座り直すと、今度はだんだんと運転席がうしろに下がっていくような気分がする。なにかこのままうしろにずんずん下がっていって、ボタッと席もろとも車のうしろ側に落ちてしまいそうな感覚である。
(ははぁ、これは眠いから変な錯覚が起きるのかな)
と思ったのである。
さて、H君も目を覚ますと、いきなり大きな外車の座席に座っている感じがしたというのだ。
ふたりがそう思ったのも無理はない。
なんとそのボンネットの先が、徐々にではあるが伸びているのである。それはけっして気のせいなどではなかった。なぜならその先端のヘッドライトの光も自分たちからぐんぐん遠ざかっていく……。
助手席のH君は窓を開け、身を乗り出すようにしてタイヤの位置を確認する。でも、タイヤの位置は変わっていない。どうやら変化しているのはボンネットだけのようである。
「おい、降りて見てみよう」
ということになって車を停めてみたが、ふたりが降りた時にはもとのボンネットに戻っていた。