長い塀(東京都) | コワイハナシ47

長い塀(東京都)

私がある打ち合わせのため、都内のある広告代理店に行ったときのことである。

担当の人を待っていると、オフィスの向こうの方でこの会社の若い社員らしき人が、上司に向かって懸命になにかを言い訳している。それが、不思議なことを言っているのだ。

「本当なんです。本当に狐は人をだますんです!」

これは聞き逃せないな、と私は聞き耳をたてた。

話を総合すると、こういうことらしい。

なんでも、その人はさっきまで車で営業に出かけていたらしい。

国道から折れて、ある路地にかかると道の両側がお寺の長い白い塀に囲まれた。

ここはこんな風景だったかな、と思いながらその道を進むが、行けども行けどもその塀が続く。いやに長い塀だな、と不思議に思いながらなおもその道を行く。ところが塀がまったく途切れない。

(変だなぁ)と思っているうちに、あっというまに日が暮れた。さっきまで昼の二時だったのに、とヘッドライトをつける。そのヘッドライトの先も一本道で、その両側に塀がはるか向こうまで延びている。ここで、これはおかしい、と彼は本気で思ったそうだ。

「なにバカなこと言ってるんだ」と上司は冷ややかだが、社員は真顔で訴えている。

「でも、本当に急に日が暮れたんです。時計見ると五時なんです」と。

やっとここで、彼はなんとかしなければと思ったようで、とりあえず車を停めて外に出たそうだ。そして気持ちを落ち着けようとタバコに火をつけた。すると、だんだんあたりが明るくなってきた。気づくと、すぐその先でお寺の塀は終わっている。えっと振り返ると、道の両側にお寺の塀があって、すぐそこに国道が通っている。つまり国道から折れて十数メートルも進んでいないのだ。時計を見るとまだ午後二時を少し過ぎた頃。

おかしいな、あの長い塀と夕闇はなんだったんだろうと不思議に思って車に乗り込むと、昼間だというのにヘッドライトがついていた、という。

「狐にだまされるって、きっとこのことですよ!」と、彼は怪訝そうな顔をしている上司に向かって力説していたのである。

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