ゴースト・バスター(大阪市中央区) | コワイハナシ47

ゴースト・バスター(大阪市中央区)

これは、私自身の体験談である。

五年前の春先のこと。神道研究家で占い師でもあるGさんという女性から、

「ゴースト・バスター頼まれたんだけど、一緒に来ない?」という電話があった。

詳細を聞いてみると、ある居酒屋からの要請だという。その居酒屋は全国にチェーン店を持つ有名店。その大阪ミナミのド真ん中にある店の様子がおかしいらしい。

そのお店の、ある一部屋だけに奇妙なことが起こる。手も触れないのにテーブルの上のグラスが移動する。ピシッという音がしてヒビが入る。飲んだ覚えもないのにお酒が減ったりなくなったりする。お客さんも最初は気のせいかなと思うが、そのうち気分が悪くなったり、頭痛がしたりする。背後に人の気配がする。そんなことを言うお客さんが増えて、そのせいか、人がまるで入らなくなったというのだ。

ところが、本当に奇妙なことが起こるのはむしろ閉店後のことらしい。客が帰って、店の者が食器を下げにその部屋に入ると、床一面が、なぜかべっとり濡ぬれていたり、壁に男女の顔が浮き上がったりする。また、清掃中、誰もいないはずのその部屋から人の話し声がする。そういってアルバイトたちも気味悪がって、次々とやめていく。とにかくこれ以上妙な噂をたてられるのは店の沽券にかかわるので、その原因を突きとめ、怪しげなものを退治してほしいと、お店のオーナーから直接頼まれたのだという。

これは興味のある話だ。ふたつ返事で同行することにした。

その三日後の午後一時、これはお客のいない時間帯を先方が指定した時間。私は、8ミリのビデオカメラとポラロイドカメラを持って、Gさんとその居酒屋に向かった。

そのお店は、ある雑居ビルの長い階段を下り切った地下にあった。

入口にお店の関係者がズラリと並んで出迎えてくれる。東京からも本店の店長からオーナーまで来ていて、「お待ちしてました。よろしくお願いします」と頭を下げる。これはよっぽど大変なことが起こっていると思われる。

真っ白な装束と袴に身を固めたGさんは、お店に入ると脇目もふらず、すたすたと一番奥にある部屋へ向かう。一同があわててその後を追うと、その部屋に入るやいなや「この部屋ですね」とGさんが言う。「ええ、わかりますか!」と店長や店員たちが少し興奮している。見ると、そこはベージュ色の壁に囲まれ、四十七インチモニターのカラオケセットと八人掛けくらいの変形テーブルがあるこぢんまりとした部屋。

「奇妙なことが起きると、このカラオケ装置が作動しなくなったり、逆に急にスイッチが入ったりするんです。修理屋さんに来てもらったけど、原因不明でしてね……」と店長が言うと、青ざめた顔で我々を見つめていた従業員たちの口々から、どっと奇妙な体験談が吹き出した。さっそく私は8ミリビデオをまわすが、私にはなにも感じるものはなく、ただ、Gさんの指さす方向にレンズを向け、従業員たちの証言を採録していく。

Gさんが、不可思議な器械を取り出した。

電磁波形機のようなもの。なんでもこれで霊気のある場所を物理的に特定できるらしい。

ほんまかいな、と思っていると、Gさんが特定した空間で波形機の針がブーンと振り切った。大きなカラオケセットの前ではまったく動かないので、電気系統のものに反応しているのではない。では、なにに反応しているのだろう?

「これは凄すごい怨念が残ってるわね。中山さん、ここポラロイドで撮って。なにか写るかもしれないよ」とGさん。

言われるがまま、ポラロイドのシャッターを切りながら、私は考えた。

考えられることはある。壁の向こうに簡易発電機とか、高圧電線が埋まっていることだ。時としてそれらの電気的作用が頭痛を起こしたり、それがもとでなにかを見たような気がする。Gさんの波形機も、その電気的なものを拾ったのだ、と。

ところが、次の瞬間、そんな私の考えは吹っとんだ!

ポラロイドの写真に、血の海が写った。

ベージュの壁一面から赤黒いものがわらわらと浮き出て、それがしたたり落ちている。

テーブルの上一面にも、べったりと血のかたまりが。

現像ムラではない。テーブルの上には、置かれていた白い皿やおしぼりが、ちゃんと血の上に乗っている。壁から浮き出ているものとテーブルの上のものの質感も違う。

「これ、血!」と驚いて差し出した写真に、お店の人たちがわっと集まってきた。

皆、真っ青な顔をしながら口々に言う。

「やっぱり」

東京から来たというオーナーがその写真を手にして、目の前のベージュの壁としきりに見比べる。そして溜ため息をついて言った。

「やっぱりあるんだね、こんなことが……」

と、その時誰かの携帯電話が鳴った。緊張の頂点にいた皆の身体がビクッと反応した。

「携帯電話でした」と言いながら、ポケットから携帯電話を取り出す店長に、一様にほっとした空気が流れる。

「もしもし、もしもし……あっ、切れましたね」と店長。ところが次の瞬間、店長の顔色が変わった。

「あの、ここ、携帯、通じないんです……」

一週間後の満月の夜。

Gさんと私はふたたびそのお店に行き、霊封じの儀式をおこなった。

白い装束と袴、長い髪をうしろに束ねたGさんが、部屋の四隅に御札を貼る。御お神酒みきと榊さかきをテーブルの上に置き、祝詞のりとを読む。神道形式の除霊であった。

何週間かして、居酒屋の店長らがGさんのもとにお礼にやって来て、「あれからもう怪しいことは起こらなくなりました」と晴れやかな顔をして帰っていったのである。

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