ペンキ塗り立ての白い喫茶店(東京都杉並区阿佐ヶ谷) | コワイハナシ47

ペンキ塗り立ての白い喫茶店(東京都杉並区阿佐ヶ谷)

友人のU君が、東京の阿佐ケ谷で不思議な喫茶店に入ったという。

夕方の仕事帰り、商店街を歩いていると別になんの気もなく、ふと商店街の脇の道を入ってしまった。すると、ちょっと小粋な見慣れない喫茶店が目についた。なんだか入ってみたい衝動にかられ、カラン、と喫茶店の扉を開けた。

中は白いペンキが塗り立てのような新しい内装。カウンターに口くち髭ひげをたくわえた白髪のマスターがいる。マスターのたててくれるコーヒーは格別にうまかったが、他に客が入って来るでもなし、ずっと客はU君ひとりだけであったという。

マスターとはなんということもない世間話をした。長い間サラリーマン生活をしていたが、このほど退職してやっとこんな店を持つことができた、とそのマスターは感慨深そうに言ったという。また、そのマスターのコーヒーをたてる時の表情にも、コーヒーに対する愛情のようなものがなんとはなしに伝わってきたらしい。

その日は三十分ほどで店を出たが、そのコーヒーの味が忘れられなくて、翌日も仕事の帰りにその喫茶店に入ろうと思ったが、そのふと入った脇の道というのが思い出せない。そういえばこの商店街はいつも通るのに見覚えのない脇道だったなと、それでもあたりの脇道を全部入って歩き回ってみたが、ついぞそんな喫茶店は見つからなかったという。

ところで、『新耳袋』第一夜を出版した際に読者の体験を募集したところ、同じような体験をしたという投書があった。Y子さんというプランナーをしている女性である。

彼女も十年ほど前、日曜出勤の帰りに大阪の淀屋橋と本町の間にある見慣れぬ居酒屋に同僚とふたりで、いつのまにか入っていたという。この店も改装中なのかオープンしたてなのか、とにかく白いペンキの匂いが塗りたてのように残っている。日曜日にこんな人通りの少ないオフィス街に店を開けているとはおかしいし、まだ未完成という感じもして、変な店だな、とは思っていたという。他に客もなく、しばらく飲んで帰ったが、その店のことが気になり翌日その同僚とその店を見にいったが、そんな店はついぞなかったという。

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