ほおずき市の男(東京都) | コワイハナシ47

ほおずき市の男(東京都)

3歳の夏、私は祖父と一緒に浅草の浅草寺に遊びに行った。祖父のお目当てはそこで開かれるほおずき市だった。

赤く巨大な提灯で有名な雷門をくぐり、仲見世でおみやげ屋をひやかしながら歩いた。そのせいもあるのか、いざ境内に入ろうというときに足が痛くなってしまった私は、祖父に抱っこをせがんだ。

赤く熟れたほおずきの実、出店の売り子の呼び込み、風に揺れる風鈴。祖父の腕に抱かれながらそれらを見ていると、ふと後ろに男性が立っていることに気が付いた。

そして、顔を上げてその男の姿を見た私は、後悔することになるのだ。

男の顔はぐにゃりと垂れ下がり、厚ぼったい唇は黒い糸で滅茶苦茶に縫い合わされている。更に卵を思わせる異常な大きさの目には、昔のテレビに映っていた砂嵐がザーッと流れていた。

そのときの私は「あ」とか「い」ぐらいは声に出したかもしれない。

とにかく祖父に何か合図を出したのだろう。私のおびえに気が付いた祖父も振り返って、男を見てくれた。

すると男の顔は通常に戻っていた。どこにでもいる普通のおじさんだった。

「何もないじゃないか」となだめてくれた祖父が、またほおずきを選び出す。そしてよせばいいのに、私はまた男の顔を見てしまうのだ。

男の顔は「砂嵐」に戻っていた。

この後、私が大泣きしたのはいうまでもない。

はっきりと覚えているのはここまでなのだが、この話を誰にしても「見間違いでしょ」「夢と混同してるのよ」と否定されてしまう。一時期は私もそうかもしれないと思い込もうとしたが、ほおずき市での祖父と一緒に撮った写真をみると、細部まで鮮明に思い出してしまうのだ。

あのときリーンと鳴った、風鈴の音までも。

思えばあれが、私が初めて体験した怪異だったのかもしれない。

2回目もあった。小学3年生の時だ。

学校の帰り道で、知らないおばさんから声をかけられた。

おばさんはいきなり「あなた、かわいそうね」と私に話しかけてきた。おばさんは更に、意味が分からずキョトンとしている私に「でも、いつか会えるわよ。元気だして」とこれまた意味不明の言葉を残し、去っていった。

家に帰ってそのおばさんのことを家族に説明しても、誰もその人を知らないという。私もちょっとおかしい人だったのかな、と気にしていなかったのだが、二週間ほどたったあと、おばさんが言っていた意味が分かった。

母が家を出て行ってしまったのだ。

ただの偶然かもしれない。だがそれにしても出来過ぎている。

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