飛んできた腕(関西地方) | コワイハナシ47

飛んできた腕(関西地方)

関西地方に住んでいたN花さんから聞いた話だ。

高校時代、N花さんは友人のS子さんと一緒に近くのテーマパークへ遊びに行った。

その頃S子さんの両親は離婚寸前で大変仲が悪く、そのことで悩んでいた彼女を少しでも楽しませようとN花さんが誘ったという。

季節は夏。

ちょうどそのテーマパークも、期間限定でお化け屋敷を開催していた。

入口から一歩入るとたくさんの鳥居が連なっている。鳥居の陰から出てくるお化けに、N花さんたちはキャーキャー言いながら歩いていた。

「その長い鳥居を出てから、すぐだったと思います」

ポンッと、何かが落ちたような音がした。

N花さんは何の気なしにS子さんの方を見てみると、S子さんの肩に腕が乗っていた。肘から下が、不自然にちぎれたような腕だったという。

「誰かがS子の肩に手を置いているような。そんな感じでしたね」

最初は見間違いかとも思った。突然のことでN花さんは、怖いというよりも何が起きているのか分からなかったそうだ。

おろし金でおろした後のようなギザギザな傷口、やせ細り節くれだった手の甲、そして枯れ枝のような指には、緑色の翡翠のような指輪が光っていた。

「……え、S子ちゃん、それ」N花さんはやっと言葉を出し彼女に教えた。

「は? 何言うてんの? ちょっと、脅かすの止めいや」

S子さんには腕が見えていなかった。N花さんがもっと怖がらせようとして、ふざけていると思ったらしい。

信じてもらえないので仕方なく、N花さんはそれ以上何も言わなかった。

「でも、ずっと気になって。お化け屋敷を楽しむどころじゃなかったんです。だって外に出てもずっと乗ってるんですよ。その腕……」

押し黙っているN花さんを見て、S子さんは具合が悪いと勘違いしたらしい。まだ日は高かったが帰ろうということになった。そして最寄の駅に着いてみると、改札口に人だかりができていた。

「人身事故です。アナウンスも流れていました。駅の外にパトカーも救急車も停まっていたから、何かあったのかって思ってたんですけど……」

どうやって帰ろうかと、振り向いたS子の肩にはもうあの腕は乗っていなかった。いつの間にか消えていたのだ。

「ああ、消えて良かったってホッとしましたね。でも、バスを待っているとき、前にいたオジさんたちが大きな声で話してたんです。あの駅で女性が飛び込んだらしいわ。どっちかの腕がまだ見つからんらしいなって」

その話を聞いたN花さんは、あの腕のことじゃないかと思いあたった。だから駅に着いたとき消えたのかと考えたそうだ。テーマパークまで飛んできたのは不可解であったが、S子さんも元気そうだし安心して家路についたという。

だが次の日、S子さんから電話をもらいN花さんは驚愕することになる。

あの駅で飛び込んだのは、S子さんのお母さんだったからだ。

彼女はずっと自分のせいだと泣いていた。両親の別居を決める際、S子さんはお母さんに引きとめられたが、お父さんと一緒に暮らすと決めたからとN花さんに話していたという。

そしてN花さんは葬儀にも出席した。遺体はバラバラだったため焼いてからおこなわれた。終了後、骨壺を持ったS子さんがおもむろに蓋を開けると、中に翡翠の指輪を入れた。

「あっ! ってビックリしちゃって。あの腕がしてた指輪と同じだったように見えたから。一瞬だったし、よく見せてとも言えないし、断定はできないんですけど、私には同じ指輪だとしか思えなくて。きっと、最後に会いにきたんじゃないかなあ」

ちなみに、その腕のことかどうか定かではないが、お母さんの身体のパーツは全部拾えなかったと噂されていたそうだ。電車の飛び込みの場合、そういった事例は珍しくないらしい。

そしてN花さんは、それ以後、なるべくあの駅を利用しないよう苦心している。

「実家に帰るとき、遠回りだけどバス使ってるんです。あの駅、もともと人身事故が多いんですよ。自殺防止用の柵がないので飛び込みやすいのかも。……だから、また見えたら怖いでしょ? 腕だけじゃないかもしれないし」

血の気が引くような話である。(了)

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