新月の夜 助けてくれた警備員(福島県) | コワイハナシ47

新月の夜 助けてくれた警備員(福島県)

東北を代表する心霊スポットの一つ、と言っても過言ではないだろう。

一九九九年に閉園した高子沼グリーンランドは、福島市の阿武隈川と高子沼の間にある丘陵地に存在していた。

二〇〇六年までに遊具類はほぼ撤去され、現在は沢山のソーラーパネルが設置されており、遊園地としての面影はなくなっている。

営業していた当時は、特に人気のある遊園地ではなかったが、廃墟と化した園内には、今でもまだ様々な噂が飛び交っている。

・遊園地の地下にあったワインセラーで、自殺したペンションオーナーの霊が出る。

・ジェットコースターで、墜落死した女性の悲鳴が聞こえてくる。

・園内の展望台で心中したカップルの幽霊が、手を繋いで歩いている。

本当に当時、このような事故や事件があったのか調べてみたが、報道は一切されておらず、全て噂の域を出ないものだと推測する。

しかしその中で、ある不思議な体験をした男性がいた。

東京に住む映像カメラマンの加藤昌樹さんは、十五年前、とある映画の撮影で、大勢のスタッフと一緒に閉園後の遊園地にやってきた。

現場にはまだ遊具がだいぶ残っていたが、全く手入れがされていないため、ジェットコースターやメリーゴーランドなど、全てのアトラクションがさび付いていた。また、機材が壊れたようなところも何か所もあった。

そして、肝試しに訪れた若者たちが荒らしていったのだろうか。落書きも多く、空のペットボトルや食べ終わったお菓子の袋などが、あちらこちらに散らばっている。

「いいねえ。まさにゴーストランドって感じ」監督は、この寂れた不気味な雰囲気が撮りたかったと終始ご機嫌で、撮影も順調に進んでいった。

高子沼グリーンランドでの撮影は、当時出演した俳優のスケジュールの都合もあり、一週間という短い期間で行われた。

ちなみに加藤さんは廃墟マニアでもあり、全国の廃病院や廃旅館などを回り動画を撮っている。この映画の撮影のオファーがきたときも、あの心霊スポットとして有名な遊園地が撮れると、楽しみにしていたのだ。

高子沼グリーンランドそして、それは撮影初日から五日目のことだった。

その日の撮影は夕方七時ごろに終了した。加藤さんは一旦、ホテルの部屋に戻ったが、夕食後、自前の暗視用ビデオカメラを持ち、個人的な動画撮影をするために車でまた遊園地に向かった。

当時は門柱も壊され車両も入りやすく、広い園内を車で移動していたという。

加藤さんは、お化け屋敷の前で車を停めると、機材を担ぎ中に入っていった。

真っ暗な館内はジメジメして蒸し暑く、そして誰かがイタズラしたのか、ガラスが割られ、壊された人形のパーツが散乱していた。

非常に荒れている状態であったが、廃墟マニアにとっては、この異世界に入ったような退廃的な薄気味悪さも魅力の一つである。

加藤さんは嬉々として暗闇の中、カメラをまわした。足元に気を付けながら、隅々まで丁寧に撮っていく。

大きな口を開け、天を仰ぐガイコツ、大泣きしているホラー映画風の人形。

ライトアップされた人形たちは、誰も来ない館内で一人寂しく「ここから出してくれ!」と叫んでいる様だった。

「本当に幽霊、でないかなあ」霊を映すことができれば、廃墟マニア仲間にもっと自慢できる。そんなことを考えながら二つ目の角を曲がると、二メートルほど先に懐中電灯の灯りが見えた。誰かいるのかとライトを照らしてみると、顔はよく見えなかったが、制服を着た警備員が立っていた.

その警備員は飾ってある人形にライトを当て、異常がないか点検しているようだ。

一メートルくらい近づいたとき、加藤さんは「勝手に入ってすいません、ちょっと、撮影させてください」と歩きながら声をかけると、警備員の姿はすっと消えていった。

あのときは、まるで霧が一瞬で分散したみたいでした、と加藤さんは語る。

驚いた加藤さんは思わず足を止めた。すると突然、ビデオカメラの電源が切れた。バッテリーの充電は十分だったはず。加藤さんはあまりの怖さに、その場から急いで引き返した。

慌てて車に乗り、震える手でエンジンをかける。幽霊なんて半信半疑だったが、あれはどう考えても本物に違いない。

とにかくホテルに戻ろうと、加藤さんは一心不乱に車を走らせた。

だが、どうも変なのだ。出口に向かって走っているはずなのに、なぜかまた、お化け屋敷の前に戻ってしまう。

悪霊の力で、遊園地から出るのを邪魔されているのではないか?

焦った加藤さんは、他のスタッフに助けを求めようと車を停め、携帯を取り出した。しかし、いつもは通じる携帯も圏外になっていて使えない。

「くそっ!」携帯に毒づいた加藤さんは、視線を感じて顔を上げた。

お化け屋敷の入り口付近に、白いドレス姿の女が立っている。女は額から血を流し、右手にはナイフのような刃物を持っていた。

心臓が止まるほどビックリした加藤さんだったが、よく見るとそれは人形だった。

さっきは気が付かなかったが、誰かがイタズラでお化け屋敷から出したのだろう。少しホッとした加藤さんは、あの警備員も見間違いだったかもしれないと考え始めていた。

落ち着いて行動しよう。連日来て慣れていると思ったが、道に迷っただけだ。

加藤さんはカーナビのスイッチを入れ、ホテルまでナビ通りに走ろうと心掛けた。だが、やはりどうしてもお化け屋敷に戻ってしまう。何度カーナビにホテルの住所を入れ直してもダメだった。しかも、お化け屋敷の前で車を停めたくないのに、勝手にエンストして止まってしまうのだ。

そして加藤さんは、ある恐ろしいことに気が付いていた。入口付近に立っている女の人形が、一周して戻ってくるごとに、加藤さんの車に近づいている。

いま、人形との距離は二メートルもない。また、不気味なほど真っ直ぐに加藤さんを見ているようだ。

次にここに帰ってきたら、自分は殺されるかもしれない。

あまりの恐怖に叫び声を上げたい衝動を押さえ、加藤さんはわき目も振らず車を走らせた。

とにかく、早くあの人形から遠ざかりたい。そして適当なところで車を停め、人形に見つからないように隠れなければ。朝になったら、スタッフたちが来る。そうすれば助かると、祈るような気持ちでアクセルを踏んでいた。

すると、前方にライトを持ち、加藤さんに向けて大きく手を振っている警備員の姿が見えた。

「おーい。ストップストップ」

先ほどのお化け屋敷にいた、警備員の幽霊かもしれない。でも、どう見ても生身の人間に見えた。

加藤さんは意を決して、その警備員の前で車を停めた。

「あんた、さっきお化け屋敷の中にいた人?」

初老くらいに見える警備員は、笑顔で加藤さんに話しかけた。

「はい。そうです」ホッとした加藤さんは頷いた。

やはり、お化け屋敷で見た警備員は幽霊ではなかったのだ。暗かったし、たぶん、目の錯覚で消えたように見えたのだろう。

「ダメだよ。早く帰らないと」

「帰りたくても、帰れないんです!」

加藤さんは、警備員に今までのことを全て話し、助けを求めた。

「新月の夜だしなぁ……」そういうと警備員は、夜空を見上げた。

「それ、どういう意味ですか?」

警備員はそれには答えず、加藤さんに指示をだした。

「とにかく、あんたはここにいなさい。ここなら安全だから。自分は、助けを呼んでくるから」

「いや、でも危ないですよ。出られないし」

「大丈夫。安心して待ってなさい」

加藤さんは必死に止めたが、警備員は走って行ってしまった。

本当に大丈夫だろうか。加藤さんは非常に不安であったが、酷い緊張状態が続いたため、疲れていつの間にか眠ってしまったという。

朝日がのぼる早朝、スタッフたちが慌てた様子で加藤さんの車に駆け付けてくれた。目を覚ました加藤さんは、安堵の涙を流したという。

心配しているスタッフたちに正直に昨日のことを話したが、悪い夢を見たんじゃないかと、なかなか信じてはもらえなかった。

そして不思議なことに、夜中に監督の携帯に加藤さんからの着信履歴があり、早朝、加藤さんがいないことに気が付いた監督が、みんなを集めて加藤さんを探しにきたというのだ。

あの警備員の話をしても、誰もその人から連絡はきていないと首を振る。

そして加藤さんの携帯の発信履歴にも、監督の携帯番号がちゃんと記録されていたのだ。

加藤さんは訳が分からなかったが、もしかすると、あの名前も知らない警備員が何かに巻き込まれたかもしれないと、急いで警備会社に向かい事情を話した。

すると受付の人は、昨日の夜は誰も警備に行っていないと加藤さんに告げた。

「映画の撮影のときだけ、頼まれているだけだから」

その日の撮影が終わると撤収するらしい。

「他に、契約している会社はありますか?」

「いやー、うちだけだと思うけど……」

加藤さんは、らちが明かないと、昨日お化け屋敷で撮った動画を見せた。早送りして、お化け屋敷で会った警備員の姿を指さして説明した。

「顔がよく映ってないから、分かりにくいかもしれませんが……」

映像をジッと見ていた受付の人は驚いた。

「これ、平田さんかもしれない……」

話を聞くと平田さんは三年前に勤務中に脳卒中で倒れ、亡くなったという。

「……そういえば、あのときの勤務先は、高子沼グリーンランドだったかも」

急いで受付の人が、当時の出勤記録を調べると、正にその通りだった。

「真面目な人だったからねえ。今も何かあっちゃいけないと、見守っているのかなぁ……」

加藤さんは、それ以上何も言えなかったという。

その後、加藤さんは助けてもらったお礼を言いに、平田さんの墓前に手を合わせたそうだ。

「平田さんの言ってた『新月の夜』って、どういう意味だったんですかねえ。やっぱり、霊が出やすいから気をつけろって、ことなのかなあ」

私は、一番の疑問点を加藤さんにぶつけてみた。

「うーん。あれから私も、色々調べてみたんですけどね。新月だと霊力が高まるとか、狐が出やすいとか書いてる本もありましたけど……何ていうか、いまいち信憑性に欠けるっていうか」

あそこにいた悪霊が、何か新月に関係していたのかもしれませんね、と加藤さんは話していた。

今ではもう、あの遊園地は跡形もなく無くなっているが、平田さんはまだ、新月の夜に見回りをしているのかもしれない。(了)

シェアする

フォローする