百八十六体の霊が取り憑く、潰した男(東京都) | コワイハナシ47

百八十六体の霊が取り憑く、潰した男(東京都)

都内近郊に住んでいるフリーターの菊池さんは、ガリガリに痩せていた。

「僕、体温が普通の人より低いみたいなんです。ちょっと触ってみてください」

差し出された彼の手に触れてみた。ペチョッとしてひんやりしている。

例えると、冬場の今にも凍りそうなぐらいの冷たい水で絞った雑巾みたいな感触だ。

「冷たいでしょ。これね、霊の仕業らしいんです。ある霊能者の人に見てもらったら、僕に百八十六体の霊が憑りついているって言われました」

ビックリして、よく生きてますねえ、とつい本音が出てしまった。

「まあ、なんとか。それよりも、僕が働くお店に迷惑がかかってるっていうか」

百八十六体がどのように迷惑をかけているのか。興味が沸いてきた私は、居住まいを正し、真面目に耳を傾けていた。

「僕が働く職場、全部潰れていくんです。もう四十件近く、潰してますね」

工業高校を卒業した菊池さんは、地元の工場に正社員で働いていたが、入社してからわずか半年で、閉鎖になってしまったそうだ。

「不景気だから、正社員の口が無くて。でも僕、若い頃は役者になりたかったんですよ。だから、一念発起して東京に出てきたんです。バイトしながら劇団のオーディション受けて頑張ってみようかなって」

それから菊池さんは、色々な所でバイトした。

「コンビニ、レンタルビデオ店、居酒屋、食堂、ラーメン屋、健康ランド、サウナ、ラブホテル、ビルの清掃会社。全部言うと書ききれないですよ」と、菊池さんは笑っていた。

「とにかく僕の行くとこ、ほぼ全部潰れるんです。それも僕が入ってから、三ヶ月から半年ぐらいで。あ、一番早いのでは、一か月半って所もありました。でも、さすがに所属してた劇団がなくなったときは、もうダメだって死んだほうがいいのかなって、思い詰めたりもしましたね」

今、一緒に暮らしているという親友が助けてくれたらしい。菊池さんはその親友から『ショップ・クラッシャー』と呼ばれているそうだが。

先の霊能者もその親友の知り合いで、特別に見てもらった。ただ、莫大な料金がかかるため、お祓いは諦めたという。

「ちなみに、その百八十六体の霊って菊池さんには見えてるんですか?」

全部見えていたら、さぞかし大変だろう。

「一部だけですね。だんだん分かってきたんです。あー、こいつが出てくると潰れるんだって」

その霊のことは、菊池さんが実際にお化け屋敷で働いていた時のことを交えて記述しようと思う。

「劇団が潰れてからは、短期のリゾートバイトで食いつないでいたんです。泊まるとこも確保できるし、ご飯も三食つくし。で、あるとき夏休み限定で、お化け屋敷のキャストの募集を見つけたんですけど」

近畿地方の、とあるテーマパークで働いていたときのことだ。

夏休み限定企画として、お化け屋敷特設会場が設けられた。肝試しの途中で行方不明になった女の子の霊を供養しようと、来場客は屋敷の中にある墓地に見立てられた場所を通り、ゴール間際の神社でお賽銭がわりの飴玉を賽銭箱に投げ入れるというミッションが与えられていた。

菊池さんは、屋敷のどんでん返しの壁から出てくるお化け役だったという。

そして、働き出した初日から異変は起こった。

神社に付けられていた注連縄が切られていたのだ。誰かがナイフでスパッと切ったような切り口だったという。すぐに新しい物に取り替えられたが、その日の閉園後に確認してみると、またやられていた。

「同じ奴だろうってことで、交代で保安カメラをチェックすることにしたんです。僕は嫌な予感がしてましたね。だから、どうか人間の仕業であってくれって、変ですけどそう祈ってました」

しかし、その祈りもむなしく注連縄は夕方4時ピッタリに自然に切れていた。

二回とも誰もそこにはいなかったのに、だ。

気味が悪いので、もう注連縄はなしでいこうと決めた後も怪異は起きた。

今度は、古井戸から出てくるお化け役のGが、蓋が開かないせいで半日ほど閉じ込められてしまった。

「Gは、開けてくれって叫んだり、中から蓋を叩いて知らせてたみたいなんですけど、夏休みで忙しくてこっちも気が付かなくて。結局、気付いたお客さんに助けられました。Gは、誰かが井戸の上に座ってる感触があったって言うんです。中から蓋を開けようとしても、そいつが退かないから開けられなかったって。でもやっぱりカメラには、何も映ってなかったんですよね……」

その後も、誰もいないはずのスタッフルームから女性の笑い声が聞こえたり、監視カメラに壁から突き出ている人の影が映っていたりと、数え上げるときりがないぐらい異変が起きたそうだ。

「霊感のあるお客さんからも、ここ絶対にいるよ、とか言われたりして、さすがにお祓いしないとマズイんじゃないかって話になったんです。その話をしている間、僕もスタッフルームにいたんですけど」

菊池さんはそのとき、ふと、監視カメラの画面をみた。

すると画面には、坊主頭でランニング、短パン姿の男の子が映っている。

男の子は満面の笑みで、見えないくらいの速さで両手をぶんぶんとカメラに向かって振っている。

そして画面は全部で5枚あった。その5枚全部に、男の子が映っていた。しかもカメラ目線で菊池さんとバッチリ目が合っていたという。

菊池さんは思わず「あッ!」と声を上げたそうだが、菊池さん以外、誰もその男の子に気付いていなかったそうだ。

「ついに出たかって真っ青になりました。そうです。その男の子の霊が出ると、潰れるんです。前に見てもらった霊媒師さんに聞いても、理由はよく分からないって言われてしまいました」

男の子の霊は、どこに現れても笑いながら両手を振っているそうだ。それなのに、菊池さんは男の子の顔を覚えられないという。

「毎回、しっかり目が合ってるんですけどね。ニコニコ笑ってるのも認識してるんですよ。でも、後から思い出そうとしても、ぼやけた顔しか浮かばないんですよねえ」

そうしきりに首を傾げていた菊池さんは、あのお化け屋敷で男の子を見て責任を感じてすぐに辞めたらしい。

そして、そのテーマパークは一年後に閉鎖した。

「お化け屋敷には霊が集まりやすいって、僕もそう思います。だって、今までどの店で働いてもこんなに変なこと起きなかったんです。あの男の子は出てきても、特に何もしませんしね。他の霊もいる所に僕が連れていったから騒いだんじゃないかって、後からそう思ったんです」

もうお店で働くのはこりごりだと、菊池さんは現在、ある農家さんを手伝い収入を得ている。

今の所、あの男の子の霊は出ていないそうだ。(了)

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