蓮コラ 蓮根ハンバーグ(東京都) | コワイハナシ47

蓮コラ 蓮根ハンバーグ(東京都)

取材をしていると、不可解な話に遭遇することがある。

今からお伝えする内容は、中年女性Wさんから聞いた話だ。

蓮根ハンバーグ

シングルマザーのWさんには、小学2年生のヒロ君という息子さんがいる。

ヒロ君のことをとても可愛がっている様子で、昨日はテストで百点を取ったとか、スポーツも万能で今年の運動会ではリレーの選手に選ばれたと、楽しそうに語ってくれた。

そんなWさんの唯一の悩みは、やはりヒロ君のこと。好き嫌いが激しいようで、特に蓮根が食べられないそうだ。あの丸く開いた穴が苦手らしい。

そんな日曜日のある日。

とある遊園地に息子さんと一緒に遊びに行こうと、Wさんは早起きをしてお弁当を作った。

主菜は、蓮根入りのハンバーグをサンドイッチにしたものだったそうだ。

もちろん、蓮根は気が付かれないようにすり下ろしてハンバーグ種に入れたという。

愛する息子に何とか苦手な物を克服して欲しいという、Wさんの懸命な努力が見える。

「でも、食べたらすぐに分かったみたいで。ほとんど口をつけなかったんです。それに今思えば、あれが失敗の元だったみたいで……」

昼食後、Wさんはヒロ君と一緒にお化け屋敷に入った。ヒロ君は非常に怖がって、入場するのを泣いて嫌がったそうだ。

泣くくらい嫌がるなら、無理強いはしないほうが良かったのではないか。私がそう質問すると、Wさんは怒ったようにムキになって反論してきた。

「男の子は強く育てなきゃダメなんですッ。ウチはただでさえ父親がいないんですから。私が父親代わりになって厳しくしないと」

各家庭には、それぞれ異なる事情がある。私は出過ぎた質問をしたと非礼を詫びた。その途端、Wさんにまた笑顔が戻り話を続けてくれた。

「とにかく息子を連れて中に入ったんです。そしたらはじめは泣いていたヒロも、慣れてきたのか途中からはすっかり大人しくなって。お化け役の人も気を使って手を振ってくれて、楽しそうにしていました」

ところが、途中から出てきたお化け役のスタッフのメイクがいけなかった。

黒く落ち窪んだ目、群青色の唇、そして真っ白に塗られた肌には、ボツボツと黒い孔が一面に穿たれている。中心は灰色に丸く塗りつぶされ、さながら蓮の実のように見えたと、Wさんは語っていた。

その人を見たヒロ君は、悲鳴を上げて倒れ「気持ち悪い」と吐いてしまったそうだ。すぐに救急車が呼ばれ、ヒロ君は病院に運ばれた。

「点滴を打って、ヒロはすぐ回復しました。でもその後……」

ヒロ君の世界は変わった。目に映るもの全てに、孔が開いているように見えるらしい。

「こんな風に見えてるみたいです」

Wさんは、スマホを差し出してきた。その画面には『蓮コラ』と呼ばれている、いわゆるグロ画像が写っていた。

蓮コラをご存じでない方のために、かいつまんで説明すると、蓮の花托(かたく)部分や蜂の巣、岩に密集しているフジツボなどを人間の肌にコラージュしたものを指している。非常に精巧に出来ているものが多く、私は見るたび、背中がゾワゾワとむず痒くなる。強い嫌悪感を抱きトラウマになってしまう方もいると聞く。検索する際は十分ご注意願いたい。

「それからヒロの書く絵は、全部こんな感じなんです。私の顔も、花とか家の絵もそうです。あれ以来、精神科にもう一年近く入院してるんですよ。私がハンバーグに蓮根を入れなかったら、いや、そもそも、お化け屋敷に入らなかったらと、後悔してるんです……」

Wさんはそう話し終るとハンカチを取り出し、さめざめと泣きはじめた。

私は非常に困ってしまった。先ほど聞いた話と若干違うからだ。

まだ入院中であるなら、昨日、テストで百点を取り、今年の運動会でリレーの選手に選ばれないと思うのだが……。

とにかく間違ったことは書けない。私は、おそるおそる先ほどのことを聞いてみた。私の聞き間違えかもしれませんが、という言葉を添えて。

すると今まで泣いていたWさんの顔が変わった。

すーっと、真顔になったのだ。

そしてずっと押し黙ったまま、私を見ている。いや、よく見ると目の焦点が少し手前にあるようだ。

私を見ているようで、見ていない。彼女は今、何を考えているのだろうか。

耐え切れなくなった私は「Wさん?」と声をかけてみた。

その言葉を合図にしたのか、彼女は無表情のまま席を立ち、そのまま店を出て行ってしまった。

それから彼女に何度か電話をかけてみたが、一回も出てくれることはなかった。未だに音信不通のままである。(了)

蓮コラ(東京都)

実はこの話には酷い結末が待っていた。

私はあれから、Wさんを紹介してくれた知人に電話をしてみた。その知人とWさんは、地元のスーパーのバイト仲間だと話していた。

開口一番、彼女は「ヤバかったでしょ?」と笑っていた。

ヤバいなんてもんじゃない。とりあえず私は前回の経緯を話し、どういうことかと、彼女を問い詰めた。

「Wさん、前は普通の地味なオバさんだったんだけどねえ。ある日突然、変な画像にハマっちゃったみたいで」

くだんの『蓮コラ』のことだ。スマホの待ち受け画面もそれだったという。

「休み時間とかバックルームで、ずっと気持ち悪い画像見てるの。そうかと思えば、急に身の上話をはじめたりしてね。息子の話、してたでしょ。私のときは、海水浴バージョンだったわ。海に行って洞窟を見つけて、藤壺が気持ち悪いから入りたくないって、嫌がる息子を無理やり連れて行ったって」

その後のストーリーは前述の通りである。他にも山や親戚の家バージョンがあるそうだ。

私に紹介したのも、お化け屋敷バージョンをどう話すのか楽しみだったらしい。

「皆、あの人が変な嘘をつきはじめたって気味悪がってた。でもね、あながち間違いじゃなかったみたいなの。店長から誰にも言うなって、口止めされてるんだけどさ」

彼女がこっそり教えてくれた。

Wさんは当時の内縁の夫とともに、一人息子を殺していた。その罪で服役した彼女は数年後に出所し、一人で東京に出てきたという。そしてスーパーのオーナーは、Wさんの身の上を知ったうえで雇っていると。

私はこれ以上詳しいことは言えないという彼女を説き伏せ、Wさんの出身地だけ教えてもらった。さっそく調べたところ、少し時間はかかったが、その事件の記事を見つけることができた。

実際の事件であるためこれから記述する内容は、かなりフェイクを入れている。被害者遺族のためにも、お許し願いたい。

Wさんと内縁の夫は、日頃から言うことを聞かない小学二年生の息子に対し、『しつけ』と称して虐待を行っていた。

そして事件当日、飲み物をこぼしたヒロ君に、カッとなった内縁の夫が錐のような尖った凶器で襲いかかり、ヒロ君の身体を数十か所も刺して、殺害したと書かれていた。

『蓮コラ』を見たことによってWさんは当時を思い出し、それを無理に忘れようとして、奇妙なスイッチが入ってしまったのかもしれない。(了)

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