忌む家 『畏怖 咽び家』(東京都) | コワイハナシ47

忌む家 『畏怖 咽び家』(東京都)

六月のある蒸し暑い日。

私は寺井氏と一緒に、東京・方南町にある〝オバケン〟の事務所を訪ねた。

いまオバケンではある古民家を借りて、シーズン5『畏怖 咽び家』というアトラクションを開催している。

忌む家 初日

『一番怖いのは人間』というテーマのこのアトラクションでは、様々なミッションが用意されている。

参加する客は、一軒家に潜んでいる殺人鬼に見つからないように隠れながらも、謎や試練を乗り越え脱出しないといけない。

そしてこの一軒家には、様々な怪奇現象が起きていた。

主催者であるオバケンさんと、吉澤ショモジさんから伺った話を紹介したい。

オバケンさんとショモジさんが、物件を探していたときの話だ。

方南町で一軒家を探していた二人は、不動産屋からある古民家を勧められた。

間取りも写真で見た外装も申し分ない。

これならいけそうだと内覧をした彼らは、玄関から一歩入ったときに異様な空気を感じたという。

「何か、空気がピーンと張りつめたような感じがしたんです。音も全くしなかったし。誰もいないから音がしないのは当たり前なんですけど。でも、それを差し引いても、静かすぎるんですよね」

だが、部屋に上がった二人は安心した。

前に住んでいた住人の家具など少し荷物は残っていたが、各部屋には日差しが入り、明るく清潔な印象を受けたからだ。そして担当者に確認したところ、事故物件ではないと返事ももらった。

内覧が終わった二人は、すぐに契約したという。

それから工事の準備に入った一日目のこと。

その日の夜、オバケンさんとショモジさんは二階の部屋を片づけにきた。その洋室には、前の住人の荷物が意外と多く放置されていた。

壺、掛け軸、こけし、そして床の上に山積みにされている本を段ボールに詰め込んでいるときに、オバケンさんがある異変に気が付いたという。

ぴったりと閉まっていた押入れの襖が、五センチほど開いていたのだ。

「押入れ、開けた?」嫌な予感がしてショモジさんに聞いてみたが、開けていないと首を振る。

気のせいかなと思い直し作業を再開すると、今度はショモジさんが「ふぁーッ」と、妙な叫び声を上げた。押入れの襖が、すーっと、閉まったそうだ。

「走って外に逃げましたよ。やっぱり何かいるんじゃないかって、借りたこと後悔しましたね。でも、もしかしてホームレスが忍び込んだのかもって話になって」

二人はまた古民家に戻り、思い切って二階の押し入れを開けてみた。

すると。

押入れの中には、荷物がぎっしり詰め込まれていた。とても人が入り込む余地などなかったそうだ。(了)

忌む家 二日目

その次の日の午前中。

「疲れてたし、もしかして見間違えたかも」ショモジさんが、昨晩のことを言い出した。一日経って考えてみると、目の錯覚だったかのような気もしてくる。

確かに、ここ最近ずっと忙しい。二人とも睡眠不足が続いている。

気を取り直した二人は、夜に作業をすることを止め、そのまま古民家へと向かった。

そして問題なく二階の作業を終えた二人は一階に降りてきた。すると、いきなり廊下の電気が消えた。

「消えたとき、バチーンて音がして。で、ショモジがブレーカーを見てる間に、僕がリビングの電気がつくかどうか確認しに行ったんです」

リビングには、なぜかベッドのマットが立てかけて置いてあったという。

そして確認が終わったオバケンさんが、ふと、マットの方を見てみると。

「女の人の顔が浮かんでたんです。マットの上に。黒髪で、ちょうど肩ぐらいの長さでした。で、僕の方をじっと見てるんですよ」

驚いたオバケンさんは、大声を出しながら外に飛び出した。その叫び声を聞いてショモジさんも慌てて出てきたという。

「普通に、道を歩いてた人も驚いてましたねえ。怪訝な顔で僕らを見てました。それからショモジに話したんですけど、まだ昼間だし、二人で確認しようって戻ったんです。そしたら」

女の正体は、マットに付いていた黒いシミだったそうだ。

「ショモジは、何だよ勘違いじゃねーかって笑ってましたけど。いや、でもホント僕を睨んでいたんです。あれはどう考えても見間違いとは思えない。まるでこの家の所有者は私よ、出て行けって怒ってるようでしたね」

その後、彼らはマットをお寺に持ち込み、ねんごろに供養したという。(了)

忌む家 三日目

「それからも、ちょっとした異変は起こっていました。それで、やっぱりみんなで確認したほうが良いって話になって。仕事が終わった真夜中に、他のスタッフ二人も連れて行ったんです」

オバケンさんとショモジさんを含め、四人で古民家に向かった。

敷地内に入った際、急に空気が変わったとオバケンさんは語ってくれた。

「内見のときと同じです。いや、あれより酷かったかもしれない。とにかく音が全くしないんです。あの異様な空気感はちょっと説明するのが難しいんですよね」

異常な雰囲気に四人が顔を見合わせていると、家の裏から小枝を踏んだようなパキッという音が鳴った。

誰かいるのかもしれないと裏に行こうと歩いていた、そのとき。

「裏の方から、こっちに向かってくる足音が聞こえてきたんです。これ、ホントにもう直感なんですけど、みんな人間じゃないって分かったみたいで」

全員、とにかく走って逃げた。しかし、その内のスタッフ一人が、足がもつれて転んでしまったらしい。

「早く来いよッって叫んだんですけど、腰抜かしちゃったみたいで。僕も置いて行けないし、でもスタッフを助けに行こうとしても、今度は僕の足が動かなくなっちゃって」

金縛りのように動かなくなったらしい。そうこうしている間に、一人の男が倒れているスタッフに近づいてきた。その男はスタッフを見下ろすように、目の前でじっと立っている。

「もうダメだって思ったら、男がフッて一瞬で消えたんです。瞬きしてる間に消えたような、そんな感じでした」

暗かったせいか、男を間近で見たスタッフも、顔までは分からなかったそうだが、非常に背が高く肩につくくらいの長髪だったという。

オバケンさんたちは後日、前述したお寺に再度依頼し、家の隅ずみまで祓ってもらった。それからは何も怪異は起きていないそうだ。

そして『畏怖 咽び家』は第四章まで続く。

勇気のある方は、挑戦されてみてはいかがかな。(了)

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