水色のワンピースを着た少女 八木山橋(宮城県) | コワイハナシ47

水色のワンピースを着た少女 八木山橋(宮城県)

ある地方都市に住む柴山透さんは、幼少期から霊が視える人だった。

幼稚園のときには酒屋の入り口で、酒瓶を持って寝そべっている男の霊を見たり、小学生のときは、女の霊が教室を覗いて泣いているのを見たりと、たくさん怖い思いをしたと話す。

そして、この力のことは親にもはっきりと伝えていないという。子供の頃、誰に言っても怪訝な顔をされ、一時期は嘘つきで変わっている子といじめられたこともあると苦笑いした。

「だからこの話も、信じてもらえないかもしれないんですけど……」柴山さんはそう前置きをして、おずおずと語り出した。

柴山さんがまだ高校二年生だった頃の夏休み中の話だ。

柴山さんは仙台市内にある遊園地に、ガールフレンドの加奈さんと二人で遊びに出かけた。実は柴山さんは、あまりこの遊園地に行きたくなかった。遊園地が苦手というよりも、そこに行くまでには『八木山橋』という橋を通らなければいけなかったからだ。

八木山橋は県内でも有名な飛び降り自殺の名所である。この橋の下には渓谷があり、切り立った断崖の上に橋がかかっている。橋には自殺防止のため、高いフェンスが設置されているが、今でも二、三年に一度くらいの割合で自殺者が出ているという。

柴山さんがこの八木山橋を通ると、決まって血だらけで立っている女の霊や、首から上がない男の霊が出て来るのだった。

ただ、この日は加奈さんの誕生日でもあり、事情を知らない彼女は遊園地に遊びに行きたいと希望を出していた。

加奈さんに喜んでもらうため、柴山さんはバスで八木山橋を通るとき、ずっと目をつむってやり過ごしていた。途中、強烈な悪寒に襲われたが、なんとか無事に遊園地についた柴山さんは、加奈さんと色んなアトラクションを楽しんだ。

そして日が暮れたころ、帰り際にお化け屋敷に入ったのだ。

このお化け屋敷の外観は西洋風の館で、館内に飾ってある人形も、ガイコツを持った魔女だったり、鎌を口にくわえた死神が急に飛び出してきたりと、割とどこにでもあるお化け屋敷だった。そして夏休みとはいえ平日で園内も比較的すいていたせいか、館内は柴山さんと加奈さんの二人だけだった。

それなりに楽しみながら歩いていると、突如、照明と流れていたBGMの音が消え、館内は真っ暗になった。

突然のことで驚いたが、おそらくブレーカーが落ちたか配線の問題だろうと考えた柴山さんは、下手に動くとつまずいて怪我をするかもと、係員の呼出しボタンを押し、助けが来るのを待った。

しかし比較的小さな遊園地でスタッフが少ないせいか、十分ほど経っても誰もこない。加奈さんが暗闇を怖がるので、仕方なく柴山さんは足元に気をつけながら彼女の手を引き、出口へと向かったそうだ。

やがて出口が見えてきた。外に出る際、ふと何かを感じた柴山さんが振り返ると、水色のワンピースを着た小学生くらいの女の子が、お化け屋敷の中に向かって走っていくのが見えた。

「いま、女の子がいた」驚いた柴山さんは、加奈さんに告げた。

「え、私たち以外、誰もいなかったよね?」

そのとき係員がやっと来た。

女の子が中にいるかもしれないと急いで話すと、係員は探しに行ってくれた。

しかし戻ってきた係員は、誰もいなかったと柴山さんに告げる。おそらく入口から出たんじゃないかと言われ、柴山さんは納得して遊園地を後にした。

その晩、柴山さんが寝ていると、パジャマの袖を誰かに何回も引っ張られる感じがした。恐る恐る目を開けると、枕元にあの水色のワンピースを着た少女が、じっと立って柴山さんを見つめている。

驚いた柴山さんが大声を出すと、少女はすっと消えていった。

ああそうか、あの子は霊だったからみんなに見えなかったのか、と気が付いた柴山さんであったが、その日から、その少女と深く関わることになるとは、この時は露ほどにも思っていなかったという。

女の子は毎晩、枕元に現れてはパジャマの袖を引っ張り、柴山さんを起こした。見た目は普通の小学二年生くらいの女の子であったため、柴山さんは恐怖を感じたことはなかったが、睡眠不足が続いた。

なぜ自分に付きまとうのかと女の子に聞いたこともあったが、女の子は何も言わずに姿を消してしまう。

たまりかねた柴山さんは、ネットや本を読んで得た、除霊の方法を全て試してみた。

しかし、いくら真言を唱えても写経しても九字を切ってみても、少女の霊は消えるどころか、今度は一日中、柴山さんから離れなくなってしまった。怖いことをされる訳ではないが、いつも柴山さんをじっと見つめてくるせいで、ひどく落ち着かない。

だが、霊媒師に頼むお金はない。親に言っても信じてはくれないだろうと、柴山さんは頭を抱えた。

そんなある日、柴山さんのバイトが終わり、その帰り道のことだ。

女の子が急に袖を引っ張った。何か言いたそうな顔をしている女の子は、黙って横にある公園の方に指をさす。柴山さんはその時、ピンときたという。

「わかった。遊びたいんだな?」

女の子は嬉しそうに頷いた。

一時間ほど、女の子を膝の上にのせブランコを漕いだ。女の子はニコニコと楽しそうに笑っていたそうだ。

遊び相手が欲しかったんだ、寂しかったのかなと、柴山さんは少し感傷的になったが、いつまでも遊び相手になる訳にはいかない。

それに、男が一人でブランコを漕いでいるところを見られるのは恥ずかしい。

もしかすると不審者扱いされ、通報されるかもしれない。柴山さんにも自分の生活があるのだ。

そしてここ最近、様子が変だった柴山さんを、加奈さんはずっと心配していた。加奈さんから何かあったのと、問い詰められた柴山さんは、悩んだが思い切って彼女に全てを打ち明けてみた。話を聞いた加奈さんは、黙ってしまった。

「ごめん、いまの全部冗談だから。忘れて」柴山さんは焦って誤魔化した。

「いや、そうじゃなくて。成仏できない理由があるのかなって考えていたの」

加奈さんは柴山さんの話を信じ、二人で理由を探してみようと提案してくれたのだ。

自分が死んだことに気付いていないから、成仏できないのかもしれない。

柴山さんたちはそう考え、少し胸が痛んだが女の子に亡くなっていることを告げてみた。しかし女の子はよく分からないといった顔をするだけで、消えてくれない。

そこで加奈さんは、女の子の身元を調べたほうが早いと、柴山さんに提案した。女の子を両親に会わせたら、女の子が成仏するのではないかと考えたのだ。

二人は図書館に行き、遊園地に行った前の日の新聞から調べはじめた。お悔み欄と社会面に、小学校低学年くらいの女の子の死亡記事が載っていないか探したのだ。

ところが、探しはじめてから一週間たっても、それらしい記事は見つからない。そこで今度は、八木山橋へ行ってみようということになった。

もしかしたらあの少女の霊は、あの橋で拾った霊かもしれない、あの橋に少女を連れて行けば何か変わるかもと期待してのことだったが、柴山さんが恐怖を押し殺して行ってみても、事態は何も変わらなかった。

四方八方、手を尽くしてみたが手がかりさえも見つからない。

その頃になると、柴山さんの体力は限界に達していた。連日の睡眠不足がたたったようだ。

柴山さんは、バイトも休んで寝込んでしまった。ネットで調べた霊媒師に高額だけどお祓いしてもらおう。親に頭を下げてお金を借りようと考えていると、お見舞いにきた加奈さんが、こう言ってくれた。

「高校卒業したら、三人で一緒に暮らそう。そうすれば透を助けられるし。それに私も働くから。お金貯めて。どうしてもしんどかったら、そのとき霊媒師さんに頼めばいいよ」

それを聞いた柴山さんは、心がすっと軽くなった。霊が視えることを理解しない親をどうやって説得しようと、ずっと悩んでいたからだ。彼女に感謝した柴山さんは、嬉しくて涙が出そうになったという。

「そうだな。俺も卒業したら頑張って稼ぐし。三人で楽しくやろうな!」

わざと明るい声で返事をした、そのときだった。

四六時中、柴山さんのそばから離れなかった女の子の霊が消えていったのだ。その時の柴山さんには、少女の霊がなぜ消えてしまったのか、全く分かっていなかった。

女の子の霊はそれ以来、柴山さんの前に現れなかった。

なぜ彼女が突然成仏したのか理由が分からないまま、柴山さんは高校を卒業し、介護職についた。

そして二十歳を過ぎた頃に、加奈さんと結婚し息子も産まれた。

柴山さんが小さな幸せを噛みしめていたとき、柴山さんの働く老人ホームに、シゲ子さんというお婆さんが入居してきた。

シゲ子さんは、弱視で足も悪かったが、オガミサマと呼ばれる口寄せをする巫女であった。そこで柴山さんは、自分は霊が視えること、そして女の子の霊のことも全部、シゲ子さんに打ち明けてみた。

「そんなことなら、おらのとごろへ来ればよかったのに」

苦労したねぇ、とシゲ子さんは笑った。

そして柴田さんは、なぜ女の子が成仏したのか聞いてみた。

「いまだに理由が分からなくて……」

「そいづぁ、その子に一緒に楽しく暮らそうって言ったからよ」

シゲ子さんが言うには、一人ぼっちだった寂しい女の子に、幸福感を与えたからだというのだ。

満足した少女は、もうこの世に未練がなくなって天国に行った。

柴山さんはシゲ子さんのその言葉を聞き、心底ホッとしたと話してくれた。

今でも相変わらず八木山橋は苦手だが、息子を連れ遊園地には遊びに行っているという。息子の一番のお気に入りは、女の子の霊と出会ったお化け屋敷だ。

柴山さんは、お化け屋敷に入るたび、あの女の子を思い出す。

名前も素性も分からないが、今度生まれ変わったら、次こそは幸せになってほしいと語っていた。(了)

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