手紙(石川県金沢市) | コワイハナシ47

手紙(石川県金沢市)

石川県金沢市に住む知人には霊感がある。彼が体験した様々な霊現象を、私も以前、何度も拝聴したことがある。

今回彼は、私がお化け屋敷にまつわる怖い話を執筆すると噂で聞き、手紙をしたためてくれた。

これからその全文を転載する。

拝啓

風薫る五月となりました。お元気でいらっしゃいますか。

あなた様が〝お化け屋敷の怖い話〟を執筆すると知り合いから聞き、少しでもお役に立てればと、筆をとった次第です。

昔からお化け屋敷という所には、本物が集まりやすいという話を耳にします。

様々な事情で場所を明かすことはできませんが、実際に私も北陸地方のとある遊園地で恐ろしい体験をしました。

これは家族みんなで遊びに行ったときの話です。

お化けが嫌いな妻を一人残し、私と娘はくだんのお化け屋敷に入りました。

館内に入ってすぐ、あるアニメの妖怪キャラクターやドラキュラ、あげくの果てにはエイリアンまで展示してあり、子供向きで明るい雰囲気だったと記憶しています。

ですが、それから先に進むといきなり真っ暗になりました。いや、暗いというよりも完全な 〝闇〟 になっておりました。

私は娘と手を繋いでおりましたが、思わず立ち止まってしまうほどでした。

しかし後ろを向いても、今まで通ってきた通路の灯りも見受けられません。

その時はすでにどちらに進んでいいのか、完全に方向感覚が麻痺していました。

すると暗闇の中から突然、「こっち!」と女の声が聞こえてきたのです。

そればかりか、その姿の見えない女は、娘の手を強く握りしめずんずんと歩いていったのです。

娘は「痛い、手を離して」と、叫び始めました。私は慌てて「止めてくれ」と訴えましたが、女は聞いてもくれません。

その歩く速さはあきらかに異常であり、私も娘の手を離すまいとやっとの思いでついていくのが精いっぱいでした。

その時、私はあることに気が付いたのです。その女は一回も曲がることなく、ただ真っ直ぐに歩き続けていることを。

あの暗闇の中、普通の人間なら猛スピードで歩くことも不可能でしょう。ですが彼女は、一回も壁にぶつかることなく歩き続けているのです。

そんな広い空間など、そのお化け屋敷にあるはずもありません。

私は娘を助けようと必死に手を伸ばしその女の腕を掴みましたが、その腕は死後硬直かと思うほど固く、冷たかったのです。

私は何とか叫び声を堪え女の動きを止めようと、転びそうになりながらも力をこめました。

すると今まで見えなかった彼女の姿が、ハッキリと浮かび上がってきたのです。まるで暗い舞台に立っている女優が、スポットライトを浴びているような感じでした。

そして女は身体を前方に向けたまま、首だけくるんと回し私を見つめてきたのです。その顔には人間的な表情は一切なく、マネキンのようでした。

ですが女はそのマネキンのような顔を娘に向けたかと思うと、今度はニヤッと笑ったのです。その口元から見えたのは、滅茶苦茶な方向に生えている汚らしい乱杭歯でした。

娘が恐怖で泣き叫んでいたのは、言うまでもありません。それから私はこのままではマズいと死力を尽くし、娘の腕を掴む彼女の指を少しずつ外すことに成功しました。

その直後のことです。目の前に急に壁が現れ、私と娘はぶつかって転んでしまいました。女はその横に立ち、相変わらず「こっち!」と、まるで私たちに早く立つように手招きをしています。

もうすでに限界でした。

私は娘に目をつぶるよう指示すると、娘を背負い逆方向へと全力で走り出しました。真っ暗で何も見えないままでしたが、後ろから床を這い追ってきているようなカサカサカサッという音にあおられ、無我夢中で逃げたのです。

すると今度は別な女性の「こっちに来て! 早く!」という声が、左前方から聞こえてきたのです。

私は一瞬迷いましたが自分の勘を信じ、左に方向を変え死ぬ気で走りました。

するとしばらくしてカーテンが見えてきました。カーテンの隙間からは灯りが見えるではありませんか。

「助かった……」カーテンから飛び出した私は、そう安堵したものです。飛び出してみると、そこは最初に通った比較的明るい通路だったのです。

待機していたお化け役のスタッフの方は、血相を変えて出てきた私たちを見て、大変驚いていました。そして泣きじゃくっていた娘を慰めてくれたのです。

それから妻に怒られたことは言うまでもありません。あれ以来、娘とお化け屋敷に行くことは禁止になりました。

さて、無事に私たち親子は脱出することができましたが、これから様々な所へ取材に行く貴姉のことが心配です。

人が怖がる所には必ず霊が集まってくる、そのことをゆめゆめお忘れなきよう。

必ずお祓いに行って下さい。

無事に出版できることを、心よりお祈り申し上げます。

敬具(了)

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