姿勢 ぶよぶよした肉塊(東京都) | コワイハナシ47

姿勢 ぶよぶよした肉塊(東京都)

感染に似ている話を聞いた。

十五年ほど前、まだ中学一年生だった早苗さんは家族と一緒に、西の方にある遊園地へと出かけた。

近所に住む、従妹のエミちゃんも一緒だ。エミちゃんは当時、小学五年生だった。一人っ子だった早苗さんは、幼い頃からエミちゃんを妹のようにかわいがっていたそうだ。

その遊園地は、とある小高い山の山頂に建てられている。そのため夏場は涼しく人気があり、とても繁盛しているらしい。

夕方になり、早苗さんたちはほとんどの乗り物を制覇し、あとはお化け屋敷に入るだけになった。そして早苗さんの両親は疲れたから休むといったため、早苗さんとエミちゃんの二人だけで入ったという。

入口には、片目が潰れた女の幽霊の看板が置かれ、読経のBGMまで流れている。おどろおどろしい雰囲気をかもし出しているが、小さい頃から何回も遊びに来ていた早苗さんたちには、慣れたものだった。

どこで人形たちが脅かしてくるのかも、大体分かっている。

仄暗い中、いつものように楽しみながら歩いていると、前の方に米袋のような塊が見えた。

目をこらしてみると、その膨らんだ袋から米が細長くこぼれ出ているように見える。

「なんで米袋に見えたかっていうと、うちの親戚が米農家なんです。ちょうど、三十キロぐらいの米が入る大きさに見えたんですよね」

不思議に思った早苗さんたちが近づいてみた。すると米袋ではなくピンク色のぶよぶよとした、まるで皮膚をはぎ取られたような人間の肉塊に見えた。

先ほど、米がこぼれているように見えたのは片腕。そしてウエストにあたるような部分は奇妙にねじれていて、両足にあたると思われる部分がそれぞれ右や左へ、ありえない方向に折れ曲がっていた。

頭部にあたると思われる部分も、つるんとして髪が生えてなかった。反対側を見ても目も鼻もない、のっぺら坊のようだったと早苗さんは語ってくれた。

「なんだろうね? これ……」

不安そうにエミちゃんが聞いてきた。

「分かんない……新しい人形かなあ」

それにしても、通路の真ん中に置くかなあ。

そう早苗さんが首を傾げていると、後ろから『蹴らないで』という女性の声が聞こえてきた。すぐ後ろから言われたような、とてもハッキリした声だったという。しかし、早苗さんが振り返ってみても誰もいなかった。

気のせいかと思い直しエミちゃんの方を見ると、突然、彼女はエイッと足でその肉塊を蹴り飛ばした。その直後。

いきなり肉塊の両目が開いた。黒目が異常に小さく、白目は血走っていて灰色に濁っている。

驚愕した早苗さんは、とにかくエミちゃんの手を引いて走って逃げた。途中、エミちゃんは足がもつれて転んでしまい、外に出るまで大変だったそうだ。

早苗さんたちが大泣きしながら出てきたため、両親はビックリしていたが、いきさつを話すと「そういう仕掛けだったんだろ」と笑って慰めてくれた。

「私もエミちゃんも親の言う通り、お化けの人形だったって思い込もうとしたんです。それに怖いのもあって、あれ以来、エミちゃんとは〝それ〟について話してなかったんですけど……」

それから六年後のことだ。

早苗さんは東京の専門学校に通っていた。年末に帰省したときに、久しぶりに高校生になっていたエミちゃんと会った。

するとエミちゃんが、早苗さんに相談したいことがあると言ってきた。

「最近、毎晩のように夢に出てくるの……〝あれ〟が。ここ二週間ぐらい、ずっと……」

あれとは肉塊のことだ。早苗さんには、すぐに分かった。

エミちゃんの話によると、あのときの二人が『お化け屋敷』に入るのを、現在の彼女が後ろから見ている、という内容の夢らしい。

「必死に『行っちゃダメッ!』って叫んでるんだけど、二人とも全然気が付かないで、行っちゃうの。後を追って『蹴らないで』って訴えても、結局はダメで……」

あの声は、エミちゃんの声だったのか。

驚いた早苗さんは、エミちゃんにそのことを告げたが、彼女は知らないと答えた。忘れてしまったのではなく、そんな声は絶対していないと、強く否定していたそうだ。

「そんなに言うなら、やっぱり私の気のせいだったってことにしたんです。それよりもエミちゃんが、毎日見る〝あれ〟のことを酷く怖がっていたし。これ以上、思い詰めないように、気にし過ぎてるから毎日見ちゃうのよって、もう忘れなよって明るく励ましたんですけど」

それから四日後。

エミちゃんは、交通事故で亡くなってしまった。

叔父さんと近所に買い物に行く途中、交差点で大型トラックに跳ねられ即死だったという。信号が青だったにも関わらず、居眠り運転でトラックが突っ込んできたのだ。

家族で過ごした明るい正月が一転した。

なんとか騒動が収まり葬儀に入ったが、エミちゃんの遺体は包帯でグルグルに巻かれ、顔を見ることも出来なかったという。

そして早苗さんは、お通夜の席で偶然、叔父さんと父親が小さい声で話しているのを聞いてしまった。

「事故現場にいた叔父の話では……エミちゃんの遺体は、奇妙に捻じれていたそうです。両足も骨折していて、あり得ない方向にバラバラに曲がっていたとか。私、そのとき、ふと思ったんです。きっと、あの肉塊と同じ姿勢だったのかなって……」

早苗さんは、最近、あの肉塊をたまに見るそうだ。

「でも、私の場合は夢じゃないんです。仕事しているときや友達と話しているとき、視界の端に入るんです。ただ、驚いてそっちを見ても、何もないんですけど……」

私が気に病んでるせいでしょうか、それともエミちゃんが呼んでるんでしょうか。早苗さんはそう言い終わると、不安そうに辺りを見回していた。(了)

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