OLのIさんの実家は、福井県福井市の古い家だそうだ。
Iさんが四、五歳の頃のこと。
彼女の部屋は家の北側にある四畳半で、二段ベッドで上に姉、下にIさんが寝ていたという。
ある夜、「はやく寝なさい」という声がして、ふっと目が覚めた。
お父さんの声でもお母さんの声でもない、聞き慣れない声。
背後から聞こえたような気がして、寝返りをうった。豆球の光で部屋の様子が見える。
あれっ、と思う。
普段は壁なのに、古い和紙のようなものが貼ってある。
そこに、女の人の顔の絵が描いてある。ギロッと何かをにらみつけたような怖い顔。その女の髪の毛はだらりと長く、その目は何か遠くのものを見ている。その絵は、赤やオレンジ、青など、色鮮やかな色彩で、その周りには流れるような難しい字が書いてある。
幼心にも、すごく古いものがここに出てきたと感じて、怖くなってまた壁に背を向けた。すると朝だったのだ。
(えっ、もう朝?)と不思議に思ってもう一度壁を見ると、もう和紙も女の顔の絵もなかったのだという。