風呂敷包みを押しつける白装束の女(東京都練馬区) | コワイハナシ47

風呂敷包みを押しつける白装束の女(東京都練馬区)

某ラジオ局のYさんが西武新宿線の上石神井駅で降りた。

夜の十一時は過ぎていて、改札から出た人の波がタクシー乗り場に向かう。Yさんもタクシーを待つ乗客の列に並んだが、おりしも雨が降っていて、早く帰りてぇなと、ちょっと苛いら立だっていた。

ふっと気がつくと、いつからそこにいたのか、Yさんのすぐ前にタクシーを待っている白い和装の妙齢のご婦人がいた。そのうしろ姿と襟元がとても清潔そうで、なんとも感じのいい美人に思える。ちらりとご婦人の横顔が見えた。やはり美人だ。

(きれいな人だなあ)と、Yさんは苛立ちも忘れてぼおっとした。

やがて、タクシーの順番がその女の人の番になった。

彼女はそそとタクシーに乗りこんだ。パタンとタクシーのドアが閉じたが、すぐにまた開いた。そしてその女性が身を乗りだすと、Yさんに向かって、「あの、わたくし深大寺までまいりますの。よければ途中までご一緒しませんか」と言ってくる。

深大寺方面なら確かにYさんの家はその途中だ。普通ならいぶかしがるところを、相手があんまり美人なので「そうですか。じゃ、ご一緒させていただきます」とYさんはタクシーに乗りこんだ。

ここで、Yさんはふと、この人は妙だなと思ったという。

深大寺に行くのなら、なぜわざわざこんな駅で降りて、タクシーを使うのだろうと。

深大寺はJRの三鷹駅か、京王線の調布駅で降りる方がはるかに近い。夜が遅いとはいえ電車がなくなるという時間でもない。

一体どういうことだろう、と思っているうちに、すぐにタクシーはYさんの家の前に着いた。

「ありがとうございました」と、Yさんはご婦人に礼を言ってタクシーを降りようとすると、彼女がYさんの袖そでを引っ張る。

「あのう、これを受け取っていただきたいのですが」と、紫色の風ふ呂ろ敷しき包みを差しだすではないか。

「はあ?」とYさんが問い直した。

「これを受け取っていただきたいのですが」とやはり彼女は風呂敷包みを差しだしている。

「あのう、今日お会いしたばかりの方から物をいただくなんて、とてもできません」と断った。

「ぜひ、受け取っていただきたいんです」となおも彼女は言う。

「いえ、ほんとうにいただくわけにはいきません」

すると「あなただから受け取っていただきたいのです」と語気を強めた。

「どういうことでしょうか?」と聞くが、「ぜひ」と風呂敷包みを押しつけられる。「しかし、受け取るわけには……」と、そんなやりとりをしているうちに「お客さん、いいかげんにしてくださいよ」と、運転手がぶぜんとしている。

仕方なく、Yさんはその風呂敷包みをご婦人から受け取ったのである。

家の玄関を開けると母親がいて、「雨が降ってきて大変だったろう」とYさんを迎えた。

「だからタクシーひろって帰ったんだ」と言いながら靴を脱いでいると、母親も風呂敷包みに気がついて、「あんた、なに持ってるの?」と聞いてくる。

「うん、それがね……」と、さっきのタクシーの中の出来事を説明した。

「ふーん、それでその風呂敷、中になにが入ってるのよ」

「さあ、俺にもわかんねぇよ」

Yさんは母親の前で、さっそく風呂敷包みを開けて見た。

「香典袋!」

中には、香典袋が十数袋入っていた。

封を開けると、三千円、五千円と額は大きくはないが、お金がちゃんと入っている。

「ねえ、その女の人、お葬式の帰りだったの?」と母が聞く。

「どうかなあ、そんな風には見えなかったけどな」

「どんな人だったのよ」

「それがね、白い着物に白い帯だったんだ」

「お葬式に白ってこと、絶対ないわよ。それになに?白い着物に白い帯?それって白装束じゃない」と母に言われて、はじめてゾクッとしたという。

まちがいなく着物に柄はなかった。白装束とは確かに妙だ。

そして行く先は深大寺。

香典袋。

なんだかあの女性が、生きた人間とも思えなくなった。

「でも、この香典、どうしよう……」

それから一カ月ほどは、Yさんはさすがに上石神井駅で降りるのが怖かったという。いつ、あの白装束の女が現れて、「包みの中、見てもらえましたか」などと問いかけてくるかと思うと、気が気でなかったのである。

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