たちけて トンネルの中の声(東京都) | コワイハナシ47

たちけて トンネルの中の声(東京都)

東京都の外れに、地元で有名な幽霊トンネルがある。

ここを走っているタクシーの運転手などがしきりに女の幽霊を見るのだという。あるいは女を乗せると、いつの間にやら消えていて、シートがベットリ濡ぬれていた、ともいう。

実際に体験者は複数いたようで、地元の新聞などで何度か特集が組まれたこともあったほどだ。

ところが十年ほど前、突如として新しい幽霊の目撃談がささやかれだした。

女のほかに、幼女の幽霊が出現するようになったという。

暗闇の中に幼女がいて、車に向かって手を振る。「おやっ?」と思ってよく見ると、幼女の手首がない、という。

地元のA新聞は、その幼女の幽霊事件を取り上げたが、それはひょっとしたら……とある事件との関係を思う人たちも出てきた。

ある事件とは、当時の日本中の人々を震撼させていたおぞましいものであった。

〝幼女連続誘拐殺人事件〟

その事件はこのあたり一帯で起こっている。だからまだ見つからない幼女の死体がそこに埋まっているのでは?というものであった。

やがて犯人のMという若い男が逮捕されたあと、実際そのトンネルの上の雑木林からMによって誘拐され、殺害された幼女の死体が見つかったのである。

一連の幽霊事件を報道していた地元のA新聞の発行者が、なんと皮肉にもそのMの父親であった。Mの父親はのちに自殺する……。

知らず、とはいえ、自分の息子が殺した幼女の幽霊をネタにしていた父親の心情は……などと思う。

さて、本題はここからなのである。

あるテレビ番組が、夏恒例の心霊スポットツアーを企画した。

この番組では、毎年夏になるとタレントのKさんを隊長とした心霊ツアーが組織され、噂の心霊スポットを回るのだ。

ディレクターのHさんは「今年はどこを回ろうか」と地図と心霊ゾーンを記した雑誌を見つめながら思案していたが、「ここだ!」と直感した。例のトンネルである。

それを聞いたタレントのKさんが「おいおい、そこはマジやからやめとこうよ」と苦言を呈するがHディレクターはどうしても行くという。そしてとうとう、この夏の心霊ツアーは東京郊外のAトンネルに決定したのである。

隊長はKさん。これに元女子プロレスラーのNさんや、霊能者、霊祓師など五、六人が加わった。そして深夜、いよいよそのトンネルに向かったのである。ただし、Kさん以外の出演者には、ここのトンネルと殺人事件との関係は伏せられていたという。ただ、ここは有名な幽霊トンネルだということだけが知らされてある。

さて深夜近く、ロケ・バスがAトンネルの前に到着した。

出演者と撮影クルーが車から降りた。一行は、ここから歩いてトンネルに入り、レポートをしながら向こう側に出るのだ。その一部始終をテレビカメラがドキュメントする。

Kさんを先頭に、一列縦隊となっていよいよトンネルに入ろうとした時のことだ。

「こらァ!」という大きな怒鳴り声があたりに響いた。

「今のなに?」とKさんが振り返る。誰もいない。あたりは人家もなく、漆黒の闇である。

「確か雑木林から聞こえたようだね……」

「あんなところに人がおるかあ!」

と、出演者もクルーも早くも騒然となった。

それは男の声だった。

気を取り直して一行はトンネルに入る。噂だけではなかった。やはりもの凄い重さのようなものがヒシヒシと身体にあたるのがわかる。その中で出演者たちは「霊気を感じる」とか「あそこに女の幽霊が立っている」とか、とにかくそれぞれのキャラクターを演じて、恐怖を盛り上げた。というより、内心も恐怖でいっぱいであったという。誰もが本当に、トンネル内のただならぬ霊気に鳥肌がたっていたそうだ。

いよいよトンネルの出口に来た。

「いよいよ、我々もトンネルから出られます」とKさんがレポートしようとしたその時である。

「たちけて」

幼い女の子の声がした。

「わあーっ」と一同大あわてで走り出した。

出演者にも、クルーにも、その声ははっきり聞こえたのである。それがトンネルの上の雑木林から聞こえたというのも、皆の一致した意見であった。

帰りのロケ・バスの中で出演者たちは、はじめてトンネルの上の雑木林からMに殺された幼女の死体が見つかったことを知らされたという。

さて、その「こらァ!」という男の声と「たちけて」という幼女らしき声は、ビデオテープにちゃんと録音されていた。

事件のことは一切伏せて、その声はそのままテレビでオンエアされたのである。

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