ある仕事でご一緒したカメラマンMさんが、ポツリと話してくれた話である。
Mさんが小学生の頃、大分県の故郷でたった一度だけ緑の夕焼けを見たという。
さすがに信じられなくて、台所で夕食の用意をしているお母さんに「ほら、夕焼けが緑色だよ」と言いに行った。最初お母さんはまったく相手にせず「夕焼けは赤いのよ」と言ってあくせく食事の支度をしている。
「でもほら、緑色だよ」となおもお母さんのエプロンをひっぱると、さすがにお母さんも顔をあげた。
太陽も雲も外の風景も緑色だ。
「あら、ほんと、緑の夕焼けね」とお母さんも目を丸くした。
おそらく台所の照明のせいかとも思ったのだろう。お母さんは台所の明かりを消した。しかし空は緑に暮れている。
「不思議なこともあるねぇ」と言いながら、ふたりで緑の夕焼けをしばらく見ていた。
翌日、学校でそのことを友だちに言ってみたが「夕焼けは赤に決まってる」と、まるで相手にされなかったという。