来てまっしゃろ?(大阪府) | コワイハナシ47

来てまっしゃろ?(大阪府)

あるテレビ番組の制作会社のMさんというプロデューサーから相談を受けた。

「夏の特番に怪談ものをやりませんか」と言うのだ。

怪談というものについていろいろ考えているうちにMさんが、ふっと顔を上げて、

「そうだ、この手の話はこの人が最適かもしれないなぁ」と言うとある人の名を呼んだ。すると「なんや?」と顔をだしたのが白髭をたくわえた恰幅のいい紳士であった。

Mさんが紹介をしてくれる。名刺をいただくと、この制作会社の副社長という肩書きのHさんであった。MさんはさっそくHさんに相談を持ちかける。

「実はですね、今怪談もので夏の特番やりましょうか言うて、いろいろ考えてましたんや。やっぱり怖い怖いのんがよろしいでしょうか、それともバラエティのノリで……」

するとHさんが言う。

「あのな、やるのは結構や。でもな、この手のもんは中途半端なことだけはやったらあかんぞ。ほら、タレントのIの生き人形、あれなんかマジやったからな」

この〝Iの生き人形〟とは大阪の放送界では有名な事件である。

もう二十年以上も前のことだが、Iさんの知り合いで人形を使って舞台を演じていた人がいた。この人形師が、ある芝居に使う女の子の人形を特注で作らせたという。体長八十センチというからかなり大きな人形である。ところがこの人形に、どうやら戦争中に空襲で右手右足を飛ばされて死んだ女の子の霊が憑ついたようで、この人形のまわりで怪奇な事件が相次いだということがあったのだ。

Iさんは、この人形を使った芝居に出演を依頼されたのである。

リハーサル中、Iさんをはじめ出演者たちが衣装ダンスの引き出しを開けると、そこにびっしり水が張っていたということが続出したという。また、身内の不幸が集中したり、スタッフ全員がなぜか右手右足に怪我をしたりした。その人形自体が、右手右足がねじれた形に作られていたそうである。

また本番中、主演女優の頭にボッと火がついて、髪の毛が燃えたということもあった。

〝生き人形〟

この頃からその人形がそんな風に呼ばれだした。

これがあんまり話題になったので、当時、大阪のA局が昼の生放送のバラエティ番組でこの人形とその因縁話を取り上げたのだ。すると本番中のスタジオに奇妙なことが起こりだした。

いないはずの得体のしれない男の子がブラウン管に映ったり、スタジオ中の照明や機材に異常をきたしたり、幕を開けるとまったく人相の変わりはてた人形が現れたりと、スタジオ中は騒然となり、ついには番組にならなかったということがあった。

その番組の担当プロデューサーが、当時A局にいたHさんだったのだ。

「あれは、マジやからな」とHさんは身体をのりだした。

番組のあと、いろいろ調査をしてみたという。

ブラウン管に映ったという得体のしれない男の子。視聴者はスタジオにいる男の子をテレビを通して見ているが、実際のスタジオには男の子はいなかったはずだという。この男の子は前夜からスタッフに目撃されていた。東京からやって来た関係者の中に、すでにその男の子がいたという。待ち合わせをしたホテルでお互い挨拶をした時、その子は柱の下に膝を抱えて座っていたらしい。それを見た者と見なかった者に分かれてしまった。また、ガードマンや受付嬢の中にも男の子を見た者もいた。子供を見たという何人かは、この子は人形を陰から動かしたりする〝仕込み〟かと思ったそうだ。だが、局側も制作サイドもそんな仕込みをした覚えもないし、男の子をスタジオに入れた覚えもないという。

「男の子はおったんや、実際見た人もいる。ガードマンなんか子供が『おはようございます』と挨拶したんでスタジオに入れた言うてる。あれは、おそらくこの世の子ではないみたいでね。あんな恐ろしいことありませんでしたわ」とHさんはひとつ溜ため息をついて、また続ける。

「生き人形だけやないんでっせ。あるクイズ番組なんか、ある問題が出た途端、電光掲示板が作動しよらん。何回やってもね。最初、技術のヤツらのミスや思うて、なんやっとんのやあ、ってブースに怒鳴りこんだんですわ。そしたら技術の連中、僕ら知りませんよお、言いよる。他に原因が考えられるんかあ、てまた怒鳴ってね。で、撮り直したんですけどやっぱり作動しよらん。わし、見てたけど技術の連中のミスやないんです。なにが原因なんかなと、何気なく台本見たんですわ。そしたら次の問題が『四谷怪談』からや。この問題やめえ!言うた途端ですわ、電光掲示板、動きよりましたんや」

初老の紳士から不思議な業界の怪談をまくしたてられた。

「でね、こういう話をしまっしゃろ。気ィつけんと来まんねんで」とHさんが言った瞬間である。

ドッカ───ン!という音がオフィス中に鳴り響いた。

私もMさんも一瞬ビクッとすると「ほら、来てまっしゃろ?」とHさんはニヤリとする。

「今の、なんの音なんでしょうか?」と私が聞くと、Hさんは「いやね、私の席の横にある柱時計が落ちたんですわ」と言う。

すると、ホッと胸を撫なでおろしたMさん。

「あのねHさん。時計も柱に付いてりゃ、落ちまっせ。それを来るとか来んとか言われてもねぇ、そんなことあるもんですか」とびびりながら反論する。

するとHさんは言う。

「M君、君はな、そうやって物事理論的に考えようとするやろ。でもな、あの時計は今まで一ぺんも落ちたことないんやで。それが、こういう話をしている時に落ちたんや。これは偶然やろか?あるかないかの問題やない。起こった出来事をどう厳粛に受け止めて対処するか、これがメディアの世界に生きるもんのとる道や」

Mさんが説教されている。

打ち合わせも終わって「それでは」と私が立ちかけると、Hさんも時計が落ちてきたという席に戻った。

「おい、この時計、直しといてくれ」と言うとAアシスタント・Dデイレクターさんがとんで来て、時計を柱に付ける作業をはじめた。

それはキッチリとネジで止めてあり、とても落ちるような時計には見えなかった。

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