【長編】嫉妬する霊(東京都) | コワイハナシ47

【長編】嫉妬する霊(東京都)

別れた理由 その1

仲良しの女優、Uさんとは、時々電話で話すんだけど、しばらく連絡とってないなーと思って、久し振りに電話してみたんです。

「どうしてる?」

と聞くと、Uさんは、

「うーん、ちょっと体の具合が悪くって。実は明日、入院なの」

「えー、どこが悪いの」

「何か背中にできものができちゃって、それを切り取る手術をするの。手術っていってもたいしたことじゃないんだけどね」

「そうなんだあ、何?おできでもできたの?不潔にしてたんじゃないの?いやだなぁ~」

と、いつもの会話の調子で冗談を言ってみたものの、彼女が話にのってこないので気まずくなり、

「お大事にね」

と、二~三分の会話で電話を切ってしまいました。

それから一週間後。

Uさんから僕の留守番電話に、退院したというメッセージが残っていたため、折り返し電話することに。というより、

「金造さんに聞かせたい、とっておきのお話があります」

なんて入ってたものだから、気になってすぐかけ直したんですよ。

「もしもし、桜ですけど」

「金造さん!聞いてよ!私、入院中、幽霊見たの。ほかの人に話しても信じてくれないからさ、金造さんならわかってくれると思って」

「そんで、どんなだった?」

「一泊二日の入院だったんだけど、一日目で手術が終わって、二日目は朝、一度目が覚めて、また昼ごろまで寝てたの。そうしたら、

ブォーン、ブォーン

っていう、大きなモーターが回るような振動音が聞こえたので、パッと目が覚めたの。私、冷房が嫌いで、窓を一〇センチぐらい開けてたから、激しい風が吹いたんだと思ったのね。確かに見ると風がカーテンをふくらませて、ぶわーっと広がってて。そのカーテンが二、三回、ふくらんだり縮んだりしていると、次の瞬間、窓からカーテンをふわっとすり抜けて、スーッと何ものかが私の病室に入ったのよ!ちょうど私の足元に立ってたの。

身長が一メートルぐらいだったわ。人間の形をした白っぽい子供のような幽霊だった。きっと五秒ぐらいいたかな。私に手を振って、すぐに壁の方に消えちゃったんだけどね」

「へえ、病院って、出るのかもしれないね。Uさんって、そういう霊体験、いままでにもあるの?」

「うん。ある。でも後にも先にも今回とそれを含めて二回。金造さんみたいにしょっちゅうではないからね。でも、そのことを思い出すだけでも気持ちが悪くなる」

「何?何よ?」

「手術するちょうど一ヵ月前なんだけど、私、彼と河口湖に行ったの。一泊二日で。Rホテルに泊まったんだけど、その時、いま思い出しても気持ちが悪くなることが起こったの。それがね、早めに夕食をとって、まだ空が明るかったから、彼と湖の湖畔を散歩してたのね……」

Uさんとの会話に少し沈黙が流れました。

「どうしたの?」

「んー。そこから記憶がないのよ。それが私だけじゃなくって、彼もなの。気づいたらRホテルの部屋のベッドの上で、私と彼が寝ていたの。ふたりほぼ同時に目が覚めて、よく見たら、彼と私が壁に、

ぎゅ――――っ!

と押しつけられていているのよ。左に壁があるとすると、私たちはその左側に、ぎゅーっとキツキツになって、仰向けの姿勢で寝てるの。ベッドの右半分以上が広く空いちゃってるのよ。何もこんなに狭いところで寝なくてもいいのにってくらい端っこに寄せられて。しかも、ふたりともホテルの浴衣をきちっと帯まで締めて、はだけることなく着てるのよ。

お互いの姿を無言のまま見つめていると、彼、私に向かってなんって言ったと思う?

『おれたち、エッチ、してないよなあ』

だって。確かにそれはその通りだから、

『う、うん』

って答えて、しばらくきょとんと彼と顔を見合わせて驚いていると、自分たちが前の日に着ていた洋服が、まるでクリーニングに出したように、ソファーの上にピシッと折りたたんで置いてあるの!

私も彼もお酒が飲めないから、決して酔ってたわけでもないし。じゃ、ホテルの人が食事の中に何か入れたと考えても、第一そんなことする必要もない。大人ふたりを運ぶだけでも、ものすごい労力なんだから。とにかく河口湖の湖畔を歩いていたら……、もうそこから記憶がないのよ!朝になってたんだから。

ただね、その後、彼と何回かデートしているうちに、ひとつだけうっすらと河口湖のデートでの、ある記憶がよみがえったの。

行きの車の中で、事故を目撃したのね。年齢は定かではないんだけど、それが三歳ぐらいの女の子が、車にはねられたらしくって。

考えられるとしたら、その子のしわざなのかな?とも思ってみたり。彼も、

『退院するまで霊がついてきたんじゃないのかあ』

と無理やりこじつけてみたり。ちょうど河口湖のデートから一ヵ月後の、入院二日目に、さっき言ったカーテン越しから、スーッと女の子の幽霊が入って来たって話したでしょ。それって事故で亡くなった女の子の幽霊かもしれない。

ねえ、どう思う?金造さんは?こういうおかしな出来事って、自分たちが一瞬でも、何かにこじつけてでもいいから、謎を解き明かしたくなるものでしょ」

Uさんは夢中になって話し、最後に、

「あ、金造さん、私、その彼と別れたから」

と、あっさりきっぱり言うんですよ。しかも別れた原因が、この河口湖での記憶がきれた事件なんだって。というのも、デートを重ねていくうち、どうしてもこの時の、河口湖の湖畔の散歩から、浴衣を着ているまでの記憶が明確にならない話に戻ってしまうからとのこと。楽しいはずのデートが、毎回この話になると、お互いが気持ちが悪くなっちゃって、結局別れたそうです。

僕に言わせれば、幽霊に引き裂かれたんだと、直感で思いました。

別れた理由 その2

霊に引き裂かれた恋人……。

実は僕もそういう経験の持ち主。信じられないでしょうけど。

僕が二四歳から二五歳の時に付き合っていた彼女は、わりと小柄でボーイッシュな人でした。性格もさっぱりしていて素敵な女性。ちなみに僕ってベタベタしてくるような女性よりも、サクサクした男性的なかっこいい女性が好み。まさに彼女は僕の方から好きになった理想の人でした。

念願かなって彼女との交際が始まり、夏の暑い日の夕方、高級居酒屋みたいなお店にビールでも飲みに行こうか、ということになったんです。

その日の彼女の洋服は、ジーンズにTシャツで、カジュアルな格好をしていました。

お店に入り、席に案内されてふたりで話をしていると、ビールが運ばれてきました。

彼女はジョッキを右手に持ってゴクゴク……。最初の一口を飲み終えると、ジョッキを持ったまま、上半身を軽く左側に傾けました。

そうしたら、体が横に傾いたと同時に、彼女の後ろから、首から上の男の人の顔が半分、ずるっと出たんです!ずるっと!

それがなぜか男なのに、彼女と同じ顔をしてるんですよ。しかもこっちを見ている。

その男の人は、はちまきのような布を額に巻いて、鎧というか、剣道で着る防具のようなものを着ているんです。その鎧のようなものは、小判のような少し渋味のある金色をした糸で、細かく刺し繍しゅうで縁取りしてあって、そんなところまではっきり見えました。

その男の人は、一八から二二歳ぐらいの美少年。完全に死んでいて、この世の人ではないことはすぐわかりました。

まさに戦国時代の人のような気がしたと同時に、病気で死んだんだと、なぜかその時、直感で思ったのです。

つまり、ビールを飲んでいる目の前の彼女が、戦国時代の格好をして、七三男になったようなものが、ずるっと現れたのです。

ジョッキを持った彼女が体をもとの姿勢に戻すと、その男は、再びずるっと彼女の後ろに、消えてしまいました。

そうですね、時間にして一~二秒。そんな短いわずかな時間の中で起こるんですよ、異様なことって。

ところが、こういう話って、目の前にいる彼女には言えないんだよねぇ。

なんっていうのかなあ、見てはいけない彼女の日記を読んでしまったような、後ろめたい気持ちになる。

たとえそれが偶然だとしてもね。

結局その日は飲んだあとは、お互いの家にそのまま帰りました。

それから数日後。

彼女が僕の家に遊びに来た時のこと。

僕と彼女が並んでソファーに座っておしゃべりしていると、台所でビニール袋をガシャガシャともむような音が聞こえたのです。ちょうどスーパーとかコンビニで買い物したものを入れる、白いビニール袋の音。もちろん、台所には誰もいません。

しばらくすると、その音は鳴りやんでしまいました。

そのことがあってから一週間後、再び彼女が僕の家に遊びに来て、ふたりでソファーに座りながら、テレビを見ていたんです。そのあと、どんな会話だったかは忘れてしまいましたが、彼女と僕は横に並んだまま、首だけお互いの方を向いて話していると、いきなり彼女がテレビの横にあるコーヒーメーカーの方を向いて、

「あっ!」

と言ったのです。

それまで彼女は僕の方を見ておしゃべりしていたのに、急に違う方を見たので、僕もつられてそちらの方に目をやると……。

このときは本当に目を疑いました。

コーヒーメーカーのところに僕たちに背を向けて、コーヒーを片づけようとしている人がいるのです。その人は、先ほど話した戦国時代の人ではなく、普通の現実にいる人間として、この部屋にいるんですよ。しかもその人は白いベルトがついた、ブルーのワンピースを着ているんです。

僕の部屋には僕と彼女のふたりだけ。

じゃあ、一体あそこにいる女は何者だ?

僕と彼女はじっとその女性の後ろ姿を見ていました。

(だけど、あのブルーのワンピースに白いベルト、どっかで見たことがある。え?誰か友達でもこの部屋にいたっけ?え?え?)

どうもその後ろ姿は、見覚えのある女の人の後ろ姿なんです。

(え?まさかそんなことが!)

その女の人は、明らかに僕の横に座っている彼女なんですよ。

もう、僕の頭の中はパニック状態。

だって、ブルーのワンピースは二日前ぐらいに、彼女が着ていた服なんです。しかも友達でもなければほかの女性でもない。横にいる僕の彼女なんですよ。

三〇秒ぐらいすると、もうひとりの背中を向けたブルーのワンピースの彼女は、トレイにコーヒーカップを載せて台所に持っていったまま、スーッといなくなってしまったんです。

女性の姿が目に飛び込んでから、沈黙の状態が二~三分続き、何か言わなくちゃと、僕が横にいる彼女の方を向いて最初にかけた言葉は、

「服、違うよね。いま着ているのと」

でした。ほかに何を言ったらいいのか、まったく浮かばなかったのです。

彼女は、

「うん。でもあのワンピース、私が一番気に入ってる洋服なの」

と、異常に驚いた顔をして言うのです。

彼女の目を見ると、少し涙が溜まっていました。本当に自分だと自覚して、混乱しているのでしょう。僕にその気持ちを悟られないようにするため、一生懸命冷静を装っていました。

彼女はもうひとりの自分の姿を見てしまったこと、僕はもうひとりの彼女を見てしまったことで、その後の会話が途切れ途切れになり、ふたりとも気分が悪くなってしまいました。

一〇分ぐらい経って、僕は彼女に、

「気持ち、落ち着いた?」

と聞くと、ゆっくりうなずいたので、コップに水でも入れて飲ませてあげようと、台所に行きました。

そしてブルーのワンピースの彼女が、台所に行ったまま戻って来ていないのと、運んだコーヒーカップがどこにあるのかを確認しました。

ところが、その女性の姿はどこにもありません。コーヒーカップもトレイもない。それどころか、コーヒーカップもトレイもテレビの横にある、コーヒーメーカーの元のところに置いてあるんです。

僕には絶対に運んだように見えたのですが。

「私たちって、ふたりっきりになると変なことが起こる。何でだろう……」

彼女は考え込んでいる様子でした。

まさに彼女の言う通りで、何人かでいるときは不思議なことは、まったく何も起こらないのに、ふたりきりになると、不気味なほど異様な現象が起きてしまう。

ところが、時間が経つにしたがって記憶は薄れていき、それから二ヵ月ちょっとたったある日、彼女とお酒を飲んだんです。そのまま気分がよくなって、彼女の家に遊びに行くことになりました。

彼女の家はコーポで、二階の奥の角部屋に住んでいます。部屋に上がり、そのままベッドで寝転んでおしゃべりして、エッチでもしようかなと思ったその時です。

「どういうことか、わからない」

という女の人の声が聞こえたのです。

彼女のアパートと、隣の家との距離は、三〇センチあるかないか。その方向から声がするので、ふっとそちらを向くと、縦二メートル、横一メートルぐらいの大きなデスマスクのような、性別のわからない無表情の顔が、ものすごいパワーで壁からグーッと出てきたのです。壁が立体的になって飛び出て来る感じに。

そのパワーは、とても逆らうことのできない強烈な風のような勢いだったので、僕も彼女もベッドから床に落とされて、そのまま一メートルほど、ふっとばされたんです。

その日を機に、彼女とは別れました。

どうやってもふたりきりになれないんですよ、必ず異様なことが起きて、僕と彼女の間に邪魔が入る。

お互い好きでも、こんな理由で別れなければいけないなんて、悲しい現実です。

僕のこの話と女優のUさんの、このふたつの話を聞いただけでは、やっぱり幽霊に邪魔されて恋人同士が別れるなんてばかげてる、と思う人もいるはず。僕だって、自分が経験していなければ信じられないと思うし。

ところが、大学の教授で、幽霊をいくつかに分類して研究している人がいるんですよ。僕は本で読んだのですが、幽霊の中には、〝やきもちをやく幽霊〟というものが存在する、と書いてありました。そのカップルが別れるまで、しつこく出て、別れると消えるそうです。

それを読んで、僕と女優のUさんのほかにも、幽霊によって別れた恋人同士がいることを知りました。

そんなカップルがいまもこの世にいることは、まぎれもない事実です。奇妙な体験のしている男女のカップル、あなたたちは大丈夫ですか?

隙間の女

僕の幼なじみで、都内のある区役所に勤めているS君という友達がいるんだけど、そのS君から久し振りに電話があったんです。

話の内容は、S君と同じ課の同僚、F君が役所に来ないので、上司に、

「君はF君と家が同じ方面だから、悪いけど今日、仕事が終わったら、F君の家に寄って、様子を見て来てほしい」

と頼まれたとのこと。S君はF君とそれほど親しいわけではなかったので断ると、上司は、

「とにかく外に出たがらないんだ。自宅にはいるんだけど、なんだか言ってることがおかしいんだよ。同僚のお前から、話してやってくれないか」

と、再び頼まれたので、仕方なくS君は、これからF君の家に行くことになった、という電話だったんです。

そして何を思ったのか、S君は、

「桜君も一緒について来てくれないか」

と言うのです。僕はF君とこれまで一度も会ったこともないし、第一、S君とも何年も会っていないので、

「いや、僕は面識ない人だし」

そう言うと、S君は、

「頼む、お願い」

と、真剣に僕に懇こん願がんするので、仕方なく同行することになりました。

F君の家は二階建ての木造アパートの、二階の奥から二番目の部屋に住んでいて、僕たちがドアを叩いて呼ぶと、中からちゃんと返事をするんですよ。ところが出て来ないので、S君がドアを開けると、鍵が開いていて、僕たちが玄関に立つと、ちょうど真正面に小さな部屋があって、そこにF君がいたのです。

この時は真夏なのに、部屋は窓どころか雨戸まで閉めきって、しかもこたつに入っているんですよ。こたつがけの布団ですっぽり体を覆って、顔だけ出している。その顔もなんだか青白くて。

S君が、

「何やってんだよ、そんなところで。窓なんて閉めきってないで、外に出て俺たちと飯でも食いに行こうよ。ほら、金造君も来てくれたんだよ」

とF君に声をかけると、

「いやだ、絶対にいやだ。俺は絶対にどこへも行かない」

と、ものすごい剣幕で怒るのです。そこで僕が、

「どうして?」

と聞くと、F君は、

「女がさびしがるから行かない」

と言うのです。どこを見ても女の姿なんて見えないので、

「女なんていないじゃないか」

と言うと、またF君は、

「いるじゃないか。女がさびしがるから俺はここにいる」

と、ひどく怒ったように言い、僕の立っている右側の方を指でさしたのです。

ちょうど僕の立っている右側には、食器やコップをしまうような、背丈の高い棚があって、どうもその辺りだと言うので、僕もS君も、棚の方に目をやると、別にいないんですよ、女の人なんて。

僕は、何、わけのわからないことをF君は言ってるんだろうと、もう一度、

「どこだよ」

とあらためて聞くと、F君の少しかすれたような声が、だんだん強くなる口調で、

「そこに、いるじゃないか!」

と、また僕の右側を指すのです。

(まさかなあ)

僕はそう思いながら、食器棚の背と、壁の隙間をのぞいてみると……いたんです!

食器棚の背の方をまっすぐ向いた、髪が長くて赤いワンピースを着た、二〇歳前後の女が!

目に飛び込んできた瞬間、とっさに頭の中で、

(いまのはポスターだったのでは?)

と思いました。よくカメラ屋の前とかに、アイドルの等身大の、厚紙でできたポスターがありますよね。あれかと思ったんです。

第一、そんな狭いところに人なんて入れませんから。三ミリぐらいの隙間なんですよ。

すると、その髪の長い女性が、ふーっとこっちを向いたんです。その瞬間、僕とS君は、

「うわぁ―――――」

と、ものすごい勢いで部屋を飛び出して、夢中で走りました。

一〇〇メートルくらい走ったかな。ふたりともゼーハアゼーハア言いながら顔を見合わせて、

「なんだ、あれ?」

と僕が言うと、S君は、

「もう一度見に行かないか」

と言います。それをとにかく僕は断って、このことはなかったことにしたいと、その日以来、S君とも連絡をとらなくなりました。

それぐらい、不気味だったのです。

あの女性が誰なのか、なぜあんな狭いところにいたのか、真相は不明です。その女性の顔がどんなだったかは、はっきり覚えていません。ふーっと振り向いた瞬間、とにかく走って走って逃げまくったのですから。

思い出そうとして、いまここでその時の話をしているだけで、気持ちが悪くなってきます。とにかく不気味でした。

あえて僕の直感で言うなら、かつてその女性はF君の前に住んでいた人の彼女で、この部屋で自殺して死んだような気がしました。なぜなら、

「女がさびしがるから行かない」

というF君の言動から考えても、女性の男性に対する強い思い、未練を感じます。この世に思いを残したまま成仏できず、この部屋のF君にとりついているのだと思いました。

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