『ガキの使い』の収録にて(神奈川県) | コワイハナシ47

『ガキの使い』の収録にて(神奈川県)

日本テレビの番組『ダウンタウンのガキの使いあらへんで』で、肝試しをやったんですよ。

この放送を見た人なら、その怖さを知っているはず。もちろん、やらせでもなんでもない、本物の幽霊の声を番組で流したんですから。

この日は、夕方四時ごろ日本テレビ前を出発。

マイクロバスには、ドライバーの次に僕が乗り、一番後ろの右から二番目に座りました。右隣には僕のマネージャー、左には僕とは面識のないスーツを着た男性、マネージャーの前の席には、お笑いふたり組のココリコ遠藤、そしてマイクロバスのドアを開けてすぐ手前の、補助席のようなひとり用の席に、ココリコ田中が座り、バスの中は満員状態。

ちなみにダウンタウンのふたりは、他の番組の収録があるため、我々よりも一時間遅れで、別の車で日本テレビを出発することになっていました。

しゃれにならない不吉で異様な出来事は、出発する前から起こったのです。マイクロバスに一番最後に乗ってきたココリコ田中が、

「おはようございます!」

と、とても元気な挨拶をして、席に座ったとたん、パコンッと、寝始めたんですよ。

まるで死んだような感じに。

ちょうど僕の席の左斜め前にいたので、その様子がよく見えたんです。

顔色もみるみるうちに真っ青、真っ白になってきちゃって、

(田中、大丈夫かなあ)

と心配になったので、相棒の遠藤に、

「お前ら大変だなあ、こんなに疲れるくらい、ハードスケジュールだったんだぁ」

と言うと、遠藤は、

「全然そんなことないっすよ」

という答えがかえってきました。現に遠藤は全然元気で、はしゃいじゃってるわけ。

「じゃあ、なんでこいつ、こんなになっちゃってるの?」

と聞くと、

「さあ……」

と遠藤は少し困った様子で答えていました。

この日肝試しをする場所は、神奈川県の山奥にある、いまは使われていないトンネルで、日本テレビから車で二時間もあれば着くようなところだとスタッフに聞かされていました。

ところが二時間経っても、三時間経っても現地に着かないんですよ。

それどころか、我々よりも一時間遅れで日本テレビを出たダウンタウンが、先に着いているんです。

僕はバスに乗り込んで二時間ぐらい経ったとき、しばらくの間窓の外を見ていたら、

(さっきもこの道、通らなかったっけ?)

というような、見覚えのある道に出てきました。

(とは言ってもドライバーはプロだし、間違えるわけないか)

と、窓の外を眺めていました。

特にテレビ局で指名されるドライバーは、道にくわしくて、その日の交通情報を把握したうえで近道を選ぶくらいの、ベテラン。

そのプロのドライバーが、また間違えたらしく、さっき通った道に出てきたのです。

(このまままっすぐ行けばいいんじゃないかなあ)

と思うようなところを、そのドライバーは、どんどん右に右に入って行くんですよ。入れば入るほど道なき道に出て、今度は左に曲がって、また左に曲がって……。

(あれ?また同じ道に出た)

結局、三回も同じ道を右折と左折を繰り返しながら出て、その間、ダウンタウンから何回もスタッフの携帯電話に、まだ着かないのか、まだ着かないのかと、バンバンかかってくる。

ダウンタウンの方は、プロのドライバーではなく、マネージャーが運転してきて、現地にとっくに着いちゃってるのです。

とうとうダウンタウンの浜ちゃんは、

「そっち、どうなってるの?来ないんだったら今日は中止にしようや」

という連絡が入り、プロデューサーの菅さんが、

「もうちょっと待ってください。いま向かってます」

とふたりを説得。

ドライバーが迷い倒してやっとトンネルに着いたのが、夜の一一時。

本来ならこの時間にはとっくに撤収して解散になっていたはずなので、我々が到着してからも、ダウンタウンのふたりは、

「もう帰る。ロケは別の日にしようや」

と半分怒ってるわけ。

そりゃ四時間近くも待たされていたから、帰りたくもなるよなあ。僕たちも何だかんだ、七時間ぐらいバスに乗ってたんだし。

実際に番組もバラエティーですし、幽霊の写真を収めようというよりも、おもしろおかしく、楽しい肝試しができればいい、という企画だったので、出演者の誰もが、この時間からロケを開始するというのは、かなり苦痛でした。

現地に着くと、まわりは森のような木々に囲まれていて、何もない、トンネルしかないところなんです。

死んだように眠り、ピクリとも動かなかったココリコ田中が目を覚まし、どこか具合でも悪いのか、あぶら汗をかいていました。

こうしてみんな疲れているものの、スタッフだけは、

「さあ、やりましょう」

とはりきっているわけ。そのうちに雨が降り始めて、夏だというのに冷え込んできて、ダウンタウンが、

「もういやだ」

と言うのをプロデューサーが押し切って、

「ま、とにかくやりましょう。早いとこ、撮っちゃいましょう」

と言ってセッティングを始めました。

まず最初にディレクターと照明さんと音声さんの計三人が、トンネルの中に下見に行きました。するとトンネルの外で待っていたスタッフのひとりが、突然、

「うわっ」

と声を発したのです。

その人は、

「どんどん真っ暗なトンネルの中に入っていく三人の真後ろに、白いけむりのようなものがフワフワついて行った」

と言うのです。

その場にいた誰かが、雨がだんだん強くなって、視界が悪かったし、影じゃないかと言い、トンネルの中から三人が戻って来くるのをしばらく待っていました。

五分ぐらいで戻って来ると、

「照明のライトが割れたので、いま取り替えますから待っててください」

ライトが割れるなんていうことはめったにないので、この異変に不吉な感じを覚えました。

準備が整って、いよいよ肝試しのロケが始まりました。トンネルの前で、

「では、さっそく入ってみましょう」

とダウンタウンのどちらかが言うと、トンネルに少しだけ入ったココリコ田中が、いきなり、

「いやだ、絶対に入りたくない」

と言って、トンネルの入り口から二、三メートル外にいる、別のスタッフのところへ走って逃げたのです。

誰もがお笑い特有の大げさなリアクションだと思っていましたが、身長が一八〇センチもある田中の体が急に腰を曲げて小さくなり、小刻みにガタガタガクガクと震えだしたのです。だんだん顔色が黄色味から白になり、血管が青く浮き出るように変化したのです。

そうかと思うと、小さくなった体を鞠まりのようにまるめて、雨の中で泥でぬかるむ地面をコロコロと全身で転がったのです。とにかくトンネルの中に、異常な恐怖感を抱いて入りたがらないんですよ。

それを見たダウンタウンも、

「田中君、ナイスなリアクションですねぇ」

と笑っていたのですが、それでも田中は、

「絶対に行きたくない。いやだ」

と、異常な怖がり方をしたんです。

僕は田中の状況を見て、

(早く撮影済ませようよ、何怖がってんだよ)

というよりも、

(田中、大丈夫かなあ)

と怖さに対する同情心が生まれました。

それでもダウンタウンは、

「早いとこやろう」

と、いやがる田中をむりやり引っぱって、カメラマン、照明さん、音声さん、ダウンタウン、ココリコ遠藤、田中、スーツを着た男性、僕の順でトンネルの入りました。僕は一番後ろでした。

田中は半分あきらめ状態。それでも怖くて腰が真っすぐに立たない感じでした。

そのほかのスタッフは、トンネルの外でモニターをチェックしています。

先程から気になっていたスーツを着た男性は、霊能者の方で、番組に一緒に参加することになっていました。

マイクロバスで真横に座っていながら、一言も口を開かなかったので、僕はとても気になっていました。きちんとしたビジネスマン風な格好をしているので、誰かのマネージャーさんかと思っていたんです。

真っ暗なトンネルに入ると、外よりも二、三度低く、ひんやりとしています。いくら照明の明かりがあるといっても、撮影の臨場感を効果的にするためなのか、せいぜい三メートル先までしか見えません。

そのトンネルは高さは五メートルぐらい、横の幅は一〇メートルぐらい。特別広くはありませんが、見えない分、とても広く感じました。

また、僕の後ろには誰もいないので、トンネルの入り口が遠くなればなるほど不安になって、ゾクゾクしました。

入り口から歩き出して三分ほど経ったころでしょうか。

カメラマンから五メートルぐらい離れた先のところに、人が走ったような影が左から右に横切ったんですよ。

全員がその影を見たので、みんな怖くなって、

「誰かいるの?誰かスタッフ、いるの?」

と大きな声で叫びましたが、入り口からすでに一〇メートル以上離れちゃっているから、その人たちに声が届くはずもない。

場所や雰囲気が怖さをより強調しているので、あらためて僕たちは、

(本当に幽霊が出るわけない)

と、気を取り直して、番組をおもしろおかしく盛り上げるよう、それぞれが努めました。

とはいっても、外の雨の音、足音の反響音など、ちょっとした音に敏感になって、実はみんな内心ドキドキしていました。

そんなドキドキビクビクした状況にありながら、さらに番組を盛り上げるために、人影が通った現場に、松ちゃんを立たせて、ポラロイドカメラでパシッ、ジーッと撮っていました。

すると突然、音声さんが、

「わっ」

と驚いた声を発したのです。

僕たちは異常にその声に反応して、

「何?何?」

と聞くと、音声さんは震える声で、

「聞いちゃったよぉ」

と言うのです。

音声さんは、僕たちの話し声から足音など、現場の音をすべて録音し、それがヘッドフォンから聞こえてくるので、僕たちには聞こえない音まで耳に伝わってくるのです。

「何?何が聞こえたの?」

全身ゾクゾクさせながら誰かが聞くと、

「女の人の、低い、苦しそうな、〝うぉぉ〟といううめき声が聞こえた」

と言うのです。

その場にいた人たちは、

「もう戻ろう、やめよう」

と、それぞれ入り口の方を向いて戻ろうとしているのに、ひとりだけ、ひとりだけですよ、ディレクターが、

「やろう、やろう。続けてカメラ回せ!」

とねばるのです。

そのディレクター以外の人たちはさすがに、

(単なる肝試しでは済まされない)

という雰囲気の中で、とりあえずディレクターの指示でポラロイドを撮り、それが終わると急いでトンネルの外に戻る準備を始め、入り口に向かって歩き出しました。

ところが、トンネルを抜ける直前、もうすぐ外のスタッフの姿が見えそうなところまで来ると、急にテレビカメラの調子が悪くなって、撮影ができなくなり、ますます不吉なことが起きたのです。

トンネルの外に出ると、完全に田中はおかしくなっちゃって、腰をかがめて口を手で押さえながら、具合が悪そうでした。

カメラに撮られていることも忘れて怖がっているし、青白かった顔がもっとひどくなってきて、それを見ていた僕も、なんとかしてあげたいのに、どうすることもできなくて、僕の方も具合が悪くなって、吐きそうになってきたんですよ。

そうこうしているうちにロケが終わり、結局解散したのが夜中の三時。もうすぐ明け方ですよ。

そのままマイクロバスに乗り込み、スタッフは日本テレビへ、ほかはそれぞれ家に戻りました。

それから数日後。

僕のマネージャーが、この時のロケで音声さんが聞いた、女性のうめき声が取れていたので、オンエアすることになった、とスタッフから報告を受け、僕に伝えました。

さらに、この撮影に参加したスーツを着ていた霊能者は、ココリコ田中の背中に、血だらけの女性が乗っているのを見たのだといいます。

しかもそれは、日本テレビ前からマイクロバスに田中が乗って、座った瞬間、スーッと入ってきたのだそうです。

霊能者の人は、バスに乗っている間じゅう、目の前に血だらけの女性がいるので、気持ちが悪くて、一言も話ができなかったとのことでした。

僕は、マイクロバスに乗った田中が、死んだように眠り、あぶら汗をかいていたこと、霊能者が一言もしゃべらなかったこと、とにかくバスに乗っている七時間の間、このふたりだけが何も言葉を発しないことが、異様でしかたなかったんです。

また、この時のドライバーも、どうして簡単な一本道であんなに迷ったのか、どうして高速を使わなかったのか、自分でもわけがわからなかったそうです。

スタッフが後日、トンネル近くの地元の人に、このトンネルについて聞いたところ、四、五年前、このトンネルで殺害された女性の死体が、放置されたところであることがわかりました。そしてトンネルの上には、なぜだか犬神様が祭ってあるとのことでした。そして地元の人でさえ、誰ひとりとしてそのトンネルに近づくことはないと言います。

ロケの後、その霊が田中についた、というのなら理解しやすいのですが、むしろリアルだなと思ったのは、日本テレビを出発した時点で、その霊がついてきたということです。

ロケが終わったあと、田中は調子が悪くなって、三回もその霊能者のところに通い、除霊をしてもらったと聞きました。

話の途中でマネージャーが僕に手渡した一枚のポラロイド。

トンネルの前で撮ったその写真には、トンネルの上に、女性の顔をした、犬なのか、キツネなのか、動物の形をしている白っぽいものが写っていました。

おもしろ半分では済まされない、入ってはいけない場所がまだまだあると思います。

事前に入念な調査してから、ロケ現場を選ぶべきなのかもしれません。

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