供養 安倍川(静岡市葵区および駿河区) | コワイハナシ47

供養 安倍川(静岡市葵区および駿河区)

ある日の朝、ユカさんは起きるとひどく肩が凝っているのを感じた。今まで肩凝りになったことなどなかったのに……。

日が経つにつれ、食事も満足に摂れなくなってしまった。無理に食べようとしても、吐いてしまうのだ。これは悪い病気かと思い、病院で検査を受けたが、何の異常もなかった。

さらに、カラスから攻撃されるようになった。カラスがユカさんの背後から近づいて、頭や肩の辺りを蹴って去っていくのだ。そんなことが何度か続いた。

体調不良で熟睡できなくなった、ある夜のことだった。

ユカさんは物音で目が覚めた。ベッドのヘッドボード辺りに何かがいる気配がしたのだ。

ユカさんはすぐさま電気をつけた。すると、体長五十センチぐらいのやせこけたトンビがいた。

ユカさんとトンビの目が合った。すると、トンビはバサバサと飛び上がるとユカさんに向かって突進してきた。慌ててユカさんは逃げた。だが、トンビはユカさんの右肩に乗ってきた。ユカさんは手でトンビを肩から追い払おうとした。

その瞬間、トンビの姿は消えてしまった。しかし、右肩の上に乗ったトンビのずっしりとした重みだけは残ったままだ。

肩凝りの原因はトンビなのかもしれないと、ユカさんは思った。実は、ユカさんには心当たりがあったのだ。

それはユカさんの体調が悪くなる少し前、彼氏と安倍川の上流へドライブに出かけた時のことだった。

「安倍川」は静岡市葵区および駿河区を流れる美しい川だ。そこでゆっくりお弁当を楽しむのが目的のドライブだった。

休憩場所を探して、県道29号線を安倍川沿いにゆっくり遡さかのぼっていると、路上に一羽のトンビが倒れているのが目に入った。トンビは車道の真ん中で倒れているため、このまま自動車で進めば轢ひいてしまう。

二人は降りて、トンビに近寄ってみた。トンビはやせ細っていて、今にも死にそうに見える。餌が捕れないのだろうか。それとも病気で食べられず弱っているのだろうか。

ユカさんが「お弁当の唐揚げでもあげてみようか」と提案すると、彼氏は「どんな病気を持っているか分からないから触ったらダメだ。それに野生の鳥は自己治癒力があるから大丈夫だよ」と反対し、動かないトンビを足で少しずつ押しながら、道路の脇へ移動させた。

再び二人は車に乗り込んだ。彼氏が自動車のアクセルを踏んだ。

助手席のユカさんからは、倒れていたトンビがよたよたと車道の中央に向かっているのが見えた。しかし、彼氏には見えないようで、そのままトンビを轢き殺してしまったのだ。一瞬の出来事だった。

後ろを振り返ると、リアウィンドウ越しに動かなくなったトンビと、体から抜けて舞い上がった羽毛が見えた。

気付いた時にすぐさま彼氏に一声かければ良かったと、ユカさんは後悔した。彼氏は「運命だったんだよ」と言って、トンビをそのままにして走り去った。

ユカさんは、あの時のトンビが自分に憑いているのだと考えた。そして、部屋の中でトンビを見たことを彼氏に話し、もう一度安倍川へ行ってみることにした。

次の日曜日、二人は安倍川に向かった。そして、トンビに出会ったのはたぶんこの辺りだろうと思うところに車を停め、近くの河原へ降りて昼食を摂ることにした。

お弁当を広げるが、ユカさんはやはり食欲がない。ユカさんは彼氏にお弁当を勧めて、自分は安倍川をぼんやりと眺めていた。

しばらくすると、鳥の羽ばたく音がした。

突然、ユカさんの肩が軽くなった。と同時に、目の前に一羽のやせたトンビが現れ、彼氏が食べようとしていた唐揚げをかすめ取って、上空へと逃げていった。

あの時のトンビに違いない。

そう思ったユカさんはお弁当箱から唐揚げを取り出した。そして、空に向かって唐揚げを持った手を大きく上げた。すると、再びトンビが舞い降りて、すばやく唐揚げをつかみ、また上空へと去っていった。

彼氏もユカさんの真似をして、唐揚げを持った手を上げた。そして「許してくれ」とトンビに呼びかけた。

すると、トンビは彼氏の呼びかけに応じるかのように、その唐揚げを上手に足でキャッチした。

ユカさんは一つ唐揚げを取っていくごとに、トンビの姿がだんだん薄くなっていくように感じた。

とうとうお弁当箱に残った唐揚げが最後の一つになった。ユカさんは空に向かって唐揚げを持った手を上げた。

すると、トンビの姿は見えないのに、唐揚げがすっと消えた。

そして、ピーヒョロロロ……、と高らかに鳴く声だけが聞こえてきたそうだ。

以来、ユカさんが肩凝りに悩むこともなくなったという。

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