ベルボーイ(大阪市北区) | コワイハナシ47

ベルボーイ(大阪市北区)

大阪北区のTホテルでの出来事である。

あるミュージシャンがこのホテルに泊まった。

最初、この日は満室だということで、宿泊を断られたという。ただ彼にとってはここはよく利用する気に入ったホテルで、翌日おこなうライヴのホールもここに近い。おまけにキタの繁華街もすぐそこ、ということもあって無理を言い通した。

「どこでもいいんだよ。俺、どうせキタで酒飲んで暴れてよ、酔っぱらって寝るだけなんだから、どんな部屋でも文句言わねえから」

すると「では一部屋ご用意いたします」と、ホテル側は部屋を取ってくれたのである。

部屋に入った。と、なんだか線香臭い部屋だな、と思ったという。

そのまま荷物を置くと、彼は仲間たちと合流して、いつものごとく大阪のキタの繁華街に繰り出した。

深夜の二時を過ぎた頃、彼は部屋に戻ってきた。

酔っぱらっていたので、そのままベッドに倒れこんだ。と、その時である。

コン、コン、とドアをノックする音がする。

(あれ?仲間でも訪ねて来たのかな?)と、ドアまで歩いてのぞき穴を見た。

ホテルのボーイが立っている。

なんだろう、と思っていると、「すみません、フロントの者ですが、お部屋に入らせていただけませんでしょうか」とそのボーイが言う。

ドアを開けた。

「おそれいります」とボーイが入ってきた。「前にお泊まりのお客様がお忘れ物をされましたので、ちょっと調べさせていただけませんでしょうか」と言って、部屋のあちこちをゴソゴソ見ていたかと思うと、ベッドの下などをまるで這いずるようにのぞいたりして、「失礼いたしました」と、一礼して部屋を出ていったのである。

「なんだよ、こんな夜中によっ」と彼はボヤキながら、ベッドへ入った。

と、トン、トン、とまたドアをノックする音がする。

なんだよ!と飛び起きて、またのぞき穴を見るとまた例のベルボーイがいる。そして「すみません、フロントの者ですが、お部屋に入らせていただけませんでしょうか」と言う。

捜し物の場所でもわかったのかな、と、彼はまたドアを開けたという。

「前にお泊まりのお客様がお忘れ物をされましたので、ちょっと調べさせていただけませんでしょうか」とまた同じセリフを言うと、部屋の中をゴソゴソとひっかきまわす。同じところを同じようにのぞきこむと「失礼いたしました」と一礼して出ていった。

ちょっと腹が立ってきた。「おいっ、ちょっと来てよ」と、彼は電話でフロントを呼び出した。すぐにホテルの従業員が三人駆けつけてきた。

「どうされました?」

「どうされたって、おたくんとこ、どうなってんの?こんな時間に前のお客が忘れ物したとか言って、勝手に部屋に入りこませたりして。教育がなってないんじゃないの?」

すると従業員は蒼白な顔色で問う。

「そのベルボーイの襟の色、覚えてらっしゃいますか?……ははあ……、お客様、今、当ホテルの従業員の制服の襟の色に、その色は使われてございません」と、自分の襟を示した。

「それ、どういうこと?」

実は何年か前、この部屋に泊まったお客さんの荷物が紛失したという事件があったという。相当大切なものだったらしくて、若いベルボーイが随分と責任を問われ、上役からも叱られた。思い余ってそのベルボーイは、この部屋で首吊り自殺をしたという。

今日はそのベルボーイの命日で、昼間にお寺の人に来てもらって、祭壇を作って供養をしてもらったというのである。

それを聞いて、彼は思わず声をあげた。

「あっ、それでこの部屋、線香臭かったんだ!」

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