Oさんの実家がある大分県に、Rというカラオケボックスがある。
営業をやめてから、かなりの年数になるが、なぜか取り壊されぬまま廃墟となっている。Oさんが地元で聞いたところでは、幽霊がでると噂がたったのが潰れた原因で、祟りを恐れて解体工事に手をつける者がないという。
そんな話が広まっているくらいだから、地元では有名な心霊スポットになっている。もともとRの付近には断崖があって、かつては自殺の名所だったらしい。
Oさんの知人に、Eさんという女性がいる。
Eさんが高校一年生のとき、同級生の女の子が彼氏とふたりでRにいった。
一階、二階と部屋を見ながら上へあがって、最後に屋上へでた。
そこに若い女が立っていたという。
いかに有名な心霊スポットとはいえ、ひとりで見物にくる女などいない。
しかもその女は、長い髪に白い服の、まさに定番というべき姿だった。
ふたりは怖くなって、一目散に逃げ帰った。
その夜、女の子は、Rでの体験をEさんに語った。
Eさんによれば、女の子はそれなりに怖がっていたが、特に変わった様子はなかったという。
ところが翌日、その女の子は近所の池で溺死体で見つかった。
その池は、ふだんなら近づくはずもない場所で、自殺するような理由もまったくなかった。かといって他殺を思わせる部分もなく、やはり自殺という見方が強かった。
「Rへいったせいかもしれない」
と周囲は噂したが、むろんそれが原因ともいえない。
数年後、Rの一室にホームレスが住みついているという噂が流れた。
「あんな怖いところに、よく住めるなって思いました」
それからまもなくRは火事になって、焼跡から件くだんのホームレスとおぼしい遺体が発見された。Oさんは、ホームレスが火の不始末でもしたのかと思ったが、警察の調べではべつに原因があるらしい。
「だいたい焼けかたが変なんです。最上階の一室だけが丸焦げで、ほかはなんともなくて──」
Rは、いまだに解体されていないとOさんはいった。