足摺岬(高知県) | コワイハナシ47

足摺岬(高知県)

ブティックを経営しているOさんの話である。

五年ほど前、彼は父の実家がある高知県へ家族で旅行にいった。

足摺岬には、父のいとこが建てたというジョン万次郎の銅像がある。それを見にいこうと、Oさんたちは足摺岬を訪れた。

その日は、朝から雨の降る憂鬱な天気だった。

銅像の前で記念写真を撮ったあと、断崖のほうへ歩いていくと、急に寒気がした。風邪でもひいたのかとOさんは思った。

断崖へむかう道のまわりには、あちこちに落書があった。

「看板やったか木やったかおぼえてないけど、遺書みたいなことを書いとるんよ」

さようなら、とか、これから死にます、といった文字を眼にして、足摺岬が自殺の名所だったことを思いだした。

不気味に思いながら歩いていくと、意識がぼんやりしてきた。

「なんか自分で歩いてないみたいな、変な感じやったね」

ぽつりと断崖に佇んでいる父を見て、娘さんが駆け寄ってきた。

「おとうさん、なにをしよるん」

と声をかけられて、われにかえった。

いつのまにか家族とはぐれて、ひとりになっていた。断崖にある柵にも自殺者のものらしい落書がある。それを喰い入るように見つめていた。

夜になって旅館に帰ると、Oさんは高熱をだした。

軀がだるくて悪寒がする。夕食にも手をつけずに、九時頃には布団に入った。

だが翌朝には、不思議なくらいあっさりと熱はひいていた。

たいした話やないけどね、と取材のあとで、Oさんはいった。

しかしその際、同席していた家族にむかって、

「そういえば、あれはすごかったのう」

と足摺岬で見たものを口にした。

断崖の下には、大きな岩がいくつも海面に突きでている。

その岩の上に、たくさんのひとびとがいた。

若者もいれば老人や子どもまでいる。釣りでもしているのかと思ったが、当日は荒れ模様の天気だし、潮の流れも速い。

「船で送り迎えをしとるんやろうけど、あんなところに子どもがおったら危ないよなあ」

Oさんがいうと、奥さんと娘さんは首をかしげて、たしかに岩はあったが、そんなひとたちはいなかったといった。

Oさんはむきになって、絶対にいたと主張した。

話は平行線をたどったまま、どちらが真実かはわからない。

★百物語(京都府)

マッサージ店を経営するOさんの話である。

彼は中学生の頃、修学旅行で京都へいった。

その際にどういういきさつからか、ある大きな寺に一泊することになった。

ホテルや旅館とちがって、寺の夜はテレビもなく退屈である。生徒たちがひまを持て余しているのを見て、担任の若い教師が百物語をしようといいだした。

教師は、本堂の座敷に生徒たちを集めると、百物語のいわれを語った。そのあと順番に怖い話をすることになった。

もちろん細かな作法などおかまいなしだが、中学生のことだから、そうそう怪談など知る者はいない。どこかで聞いたような話ばかりが続く。

しかし凡庸な話でも数をなしてくると、それなりに怖い。

しだいに、みなが神妙な面持ちに変わってきた。

怖くて便所にいけないという声もではじめて、

「そろそろ、お開きにしようか」

と教師がいった。

次の瞬間、なにかを蹴倒すような烈しい音がして、あたりの襖ふすまがいっせいに倒れた。

Oさんたちは、驚きのあまり悲鳴もでなかった。

教師も顔色を失って、呆然としている。

やがて騒ぎを聞きつけた住職が、座敷に駆けこんできた。

住職は、生徒たちが百物語をしていたと知ると、

「うちの寺で、そんなことをするからやッ」

血相を変えて怒鳴ったという。

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