テケテケ (福岡県田川郡添田町) | コワイハナシ47

テケテケ (福岡県田川郡添田町)

「テケテケ」をご存じだろうか?

都市伝説として語られる妖怪、もしくは亡霊のことである。

元々は、北海道で電車事故にあって体が真っ二つになった人がいて、寒さのあまり血液が凍ってすぐには死ねず、上半身のみでしばらくの間生きていて、死後、亡霊になったという話だ。

この話が生まれたのは北海道であるにもかかわらず、福岡県田川郡にある「油木ダム」には、なんとテケテケが出るという噂があるのだ。

具体的な話はないのだが、この場所では1999年8月に転落事故で男性が死亡していることや、ダムの底には建造物が沈んでいること、また、近くに霊山である英彦山があることなどから、霊的な噂が生まれ、それがテケテケへと繋がっていった可能性はある。

そんな油木ダムで、1度奇妙な体験をしたことがある。

数年前、油木ダムの幽霊話を聞いた私は、友人のシノと2人で探索に向かった。

このダムには新道と旧道があり、新道には街灯や民家が立ち並んでいて全く怪しい気配はないのだが、問題は旧道だ。街灯は一切なく、真っ暗な道の端には点々と祠ほこらや石碑が立ち並んでおり、まるで、あの世へと続いているかのような道が伸びている。

旧道に入る手前に車を停めて歩いていくと、早速、祠が見えてくる。

「雰囲気あるなぁ」

なんて妙に感心しながら進んで行くと、急にシノが立ち止まる。

「お前、今足触らんかった?」

「いや、触ってないけど」

その時は、変なことを言うやつだなと思った。2人して並んで歩いており、シノ側の手にはライトを持っているのに、どうやって隣の人間の足を触ることができるのか?

「テケテケに触られたっちゃないとや?」

私がふざけて言ってみると、シノはこちらをジロリと睨んだ後、首をかしげながらブツブツ呟いている。どうもホントに怖かったようだが、私は草か何かにぶつけただけだろうと、気にしてはいなかった。

祠に着くと、中には仏像が安置されているのが見える。しかし、盗難防止のため仏像の前には格子こうしがつけられており、カビの生えた格子が不気味な雰囲気を醸かもし出している。

パタパタ……

私たちが祠の中に入り写真を撮っていると、外からスニーカーで歩くような音が聞こえてくる。他の心霊スポッターが来たのかと思い外に出るが、誰もいない。それもそうだ。この旧道は民家からも離れているため、深夜に歩いてくる人間なんているはずはない。来るとしたら、まず車のエンジン音が聞こえてくるはずだ。

「誰もおらんぜ。怖っ!」

お道化けたように言ってみるものの、シノは笑う余裕もないようで、顔が強張ったまま何も喋らない。あんまり反応がないのもつまらないもので、私も少し不貞腐れながら先へと進んで行く。

ガサガサガサー

時折吹き付ける風が藪を揺らし、その音にビクンと反応してはライトを向けてしまう。怖くなればなるほど気になってしまうもので、終いには2人して藪の方にライトを向けて突っ立っていた。

「濱、聞こえるや?」

「風の音やろ?」

「いや、足音みたいなの交じってない?さっき祠でも聞こえたし、絶対ここなんかおるぜ!」

「お前ビビり過ぎたい!」

ザッザッザッ……

「ん?」

足音はシノの気のせいだと思っていたのだが、今確かに藪の中から音が聞こえてきた。

「うわっ! ホントに足音みたいなの聞こえた!」

「やけん、俺さっきから言いようやん!」

「もう帰ろう!」

幽霊ではなくイノシシかもしれないが、イノシシだとしても怖いので、どちらにせよ引き返した方が良い。

踵きびすを返して歩き始めると、背後から強烈な気配を感じる。(あっ、これマズイやつや)頭ではそう思うが、怖くて言葉を発することもできない。お互いに、チラリと相手の目を見ては(ヤバいよな)とアイコンタクトをとりながら早歩きで進んでいく。

しかし、気配は遠ざかるどころかどんどん近づいてくる。それに伴ともなって、私達もどんどんどんどん歩く速度が上がる。

「はぁはぁはぁ……」

暗闇に2人の息遣いと、足音だけが響いている。背後の気配は全く消える気配がない。地獄のような時間だ。けれど、実際には数10秒の間だったと思う。

パタ……パタ……パタパタパタパタ!

背後から何かが駆け寄ってくる。先に走ったのはシノだった。

「うわぁ!」

2人で叫ぶと、全力で車に向かって走り出す。後ろだけは絶対に見ないようにして、無我夢中で走った。

ようやく車まで辿り着くと、我先にと乗り込んで勢いよくエンジンをかける。ライトを点けて走り出し、バックミラーを確認するが、そこにはただ真っ暗な道が続いているだけだった。

ようやく街灯のある新道まで辿り着いたとき、シノが口を開いた。

「はぁ、怖かったな。ちょっとタバコ1本吸わせてよ」

私はタバコを吸わないので、車内は禁煙だ。街灯の下に車を停めると、シノは1人で車外に降り、ドアポケットからタバコの箱を取ろうとする。

ポトリ。

先ほどの恐怖が残っていたのか、手は震えており、箱を落としてしまった。すぐに拾おうとしゃがんだ瞬間、私は叫んだ。

「すぐに車乗れ!」

一瞬、シノは戸惑うような表情を見せたが、私のあまりの剣幕に、これはただ事ではないと車に飛び乗った。

シノが乗ったのを確認すると、アクセルを踏み込んで猛スピードでダムから遠ざかる。

車内には嫌な空気が充満して、2人とも口を開かない。そこから20分ほど走ってコンビニの駐車場に車を停めると、緊張の糸は途切れ、私はシノに話しかけた。

「さっき、お前がタバコ取ろうとしゃがんだ時、後ろにピッタリくっつくようにして、真っ黒な人影おったぞ!」

あのままのんびりとタバコを吸っていたら、シノはどうなっていたのか? また、あの足音はなんだったのだろう?

多分、この場所で同じような体験をした人が他にもいて、そこからテケテケの噂は生まれたのではないだろうか……。

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