落武者 (福岡県田川郡添田町) | コワイハナシ47

落武者 (福岡県田川郡添田町)

「幽霊見たことありますか?」

「あぁ、落武者なら見たことありますよ」

嶋田さんは弱々しく答えた。

私が以前働いていた職場に下請けとして入っていた嶋田さんは、人柄はいいのだが、気が弱いところがあって、ノーとは言えない人間だった。

この時も、筋骨隆々の筆者に向かって、「幽霊? そんなもの見たことはありませんね」の一言が言えずに、正直、嘘をついているのではないかと疑っていた。

「どこで見たんですか?」

「田川の方にある岩石城がんじゃくじょうってとこです。うちの墓が近くにあるんですけど、墓参りに行くたびに、親からあそこはヤバいから近づくなって言われるんですよ。でも、そう言われると逆に気になっちゃって、夜に行ってみたことがあるんです。そしたら出たんですよ」

「落武者ですか?」

「はい。赤く光る、首から下だけの落武者が浮いていたんで、逃げ帰りました」

「わかりました。深夜に見に行ってきます」

「幽霊なんで、出る保証はないですよ……」

「岩石城」とは、田川郡添田町にある岩石山山頂を主郭とした山城で、平清盛が築いたと伝わっている。

現在は、山麓に模擬天守が作られているが、本来の岩石城とは無関係だ。遺構は背後の山中にあり、石垣や堀が残っている。

落ち武者の話を聞いた私は、早速その週の土曜日深夜、いつものメンバー4人で岩石城へと向かった。

模擬天守の方も何となく雰囲気はあるのだが、やはり模造品に幽霊は出ないだろうということで、早々と背後の遺構を目指して山道を登っていく。

季節は春で、窓を開けていると心地よい夜風が車内を吹き抜けていく。さらに、嶋田さん曰く、「合戦のような雄叫びも聞こえた」とのことなので、窓を開けていれば何か声が聞こえてくる可能性はある。

ブォ〜ブォォォォ〜〜

「え!?」

突然、車外から音が聞こえてきた。合戦の前などに鳴らす角笛の音に聞こえる。

「これ角笛やない?」

「角笛っすよ!」

メンバーに緊張が走る。時刻は深夜0時をまわっている。こんな時間に角笛を鳴らす人間はいないだろう。

「すごいっすね濱さん! やっぱりこれ幽霊っすか?」

「うーん、俺もよくわからんけど、可能性はあるかもね」

音の原因を確かめるべく、すぐに車を停めて、登山道から遺構目指して徒歩で登っていくことにした。

夜の登山道は、幽霊の噂云々を抜きにしても不気味なもので、こういった深夜の登山は何度も経験があるが、毎回肉体的・精神的に疲れ切ってしまう。

本当に幽霊でも出ようものなら、アドレナリン全開で疲れも吹っ飛んでしまうのだろうけど、実際には何も起こらないことがほとんどだ。先ほどの角笛らしき音だけでも、収穫としては立派な方だと思う。

結局、登山中には何も異変は起きず、角笛の原因も特定できぬまま、重い足を引きずるようにして我々は帰路に就いた。

岩石城からの帰り道、メンバーを家まで送り届ける前に、ファミレスに寄って腹ごしらえをすることになった。皆、先ほどの登山で疲れ切っており、動いたぶん腹も空いている。

「何も出らんかったね。やっぱり嶋田さん嘘ついとったんかな?」

疲れのせいか、少々思考がネガティブになってしまう。まあ、こう毎週毎週心霊スポットを深夜に撮影して回っても、何もないことが続いたら、嫌でも気分が落ち込んでしまう。

ガツガツと料理を平らげたころには、外は明るくなっていた。お会計を済ませ、あとは帰って寝るだけだと車に戻る。

「うわっ! 何やこれ!」

運転席を開けた私は、思わず声を上げてしまった。降りるときには全く気付かなかったのだが、今見ると運転席のシートが泥だらけになっている。しかも、尻の部分が汚れていたから、なんてレベルではなく、小石までパラパラと転がっている。

まるで、泥まみれの誰かが、私たちの食事中に運転席に座っていたかのような有様だった。もちろん、カギはきちんと閉まっていた。

もしかしたら、我々が姿を確認できなかっただけで、彼らはずっと私たちに憑いて来ていたのかもしれない……

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