この話は、前話と同じ菅生の滝が舞台である。
だが、体験者は横山さんという30代男性で、彼が10代の頃の話だ。
当時の横山さんに怖いものなどなかった。
廃墟に侵入しては落書きをする、目が合えば喧嘩をするし、「餌やり」と称して、ホームレスが多く集まる公園でパンを撒いて囲まれたりと、やりたい放題の日々を送っていたそうだ。
そんなある日、タバコを吹かしながら何か面白いことは無いかと考えているうちに、とても面白いことを思いついてしまった。
さっそく彼はホームセンターに行って「ネコ」と呼ばれる台車を購入し、夜になるのを待った。
日が落ちたのを確認すると、ネコを車に積み込み菅生の滝に向かった。駐車場に車を停めると、ネコを持って水子地蔵に近づいていく。
「どれにしようかな〜」
水子地蔵は100体を超えそうなほどズラリと立ち並んでおり、カラフルな地蔵たちが横山さんの目を悩ませる。散歩気分で全体を見ながら歩いて品定めし、お気に入りの1体が決まった。
「よしっ、これやな」
お気に入りの地蔵をネコに積むと、車に向かってガラガラと引っ張っていく。石の塊なので、見た目よりもかなり重かったのだという。やっとのことで車に積み込むと、家へと車を走らせた。
家に着くと、よっこらせと地蔵を下ろし、階段など段差があるところ以外はネコに乗せたまま引っ張って、自分の部屋まで招き入れる。
「日本で唯一、俺の部屋だけにあるインテリアやな」
満足そうに地蔵を眺めると、シャワーを浴びて一服し、地蔵とともに眠りについた……。
体が気持ち悪い。ベタつく何かが大量に体を這い回っている。
目を開けると河原にいた。赤ん坊が自分の体を這い回っており、その涎が体をネットリと湿らせている。
「あっち行けお前ら!」
そう言うと、体中の赤ん坊を払い落としているところで目が覚めた。
汗のせいか体中が湿っている。それに、汗とは違う酸っぱい臭いが自分の体から漂っている気がする。
「まさかな……」
横山さんは霊というものを一切信じていない。
たまたま変なことをしたせいで、自分が勝手に思い込んでしまっているだけだろうと、気にせずに、もう1度眠りについた。
翌日、いきなり霊感のある友人から電話がかかってきた。
「横山、お前菅生の滝で変なことしたやろ? そのままにしとったら一生子供出来んくなるぞ」
そう言って電話は切れた。
(このこと誰にも言ってないのに、なんでわかったんやろ?)
怖くはなかったそうだ。ただ、子供ができなくなるのは困ると思い、その日のうちに地蔵を返しに行ったという。
今では、横山さんは子煩悩な一児の父だ。そんな彼に無粋な質問をしてみた。
「もし子供がネコでお地蔵さん持って帰ってきたらどうします?」
「ぶっ飛ばすな」
きっと息子さんは大丈夫だろう。