格闘家 (福岡県北九州市若松区) | コワイハナシ47

格闘家 (福岡県北九州市若松区)

2013年に焼失してしまった、若松の廃ラブホテルT。

廃墟と化してからは心霊スポットと呼ばれるようになり、ボヤ騒ぎ等は起きていたようだが、2013年の火事後は解体され、現在は土台部分しか残っていないようだ。

荒廃後、最悪ともいえるような末路を辿ったホテルTであるが、私はある人物から、現存していた頃に内部潜入した時の話を聞くことができた。

斎藤さんは数年前、地元で喧嘩最強と言われており、セミプロの格闘技大会にも出場経験のあるダイキさんという人物と2人でホテルTを訪れた。

今でこそ格闘技に打ち込み、真っ当な人生を送っているダイキさんだが、当時は血の滾たぎりを抑えることができなかったようで、とても暴力的な人物だったそうだ。

そんなダイキさんは、もちろん幽霊なんて怖くないと日ごろから豪語しており、この日も自分の力を誇示するかのように、壁などに蹴りを入れながら内部の探索を進めた。

1階の暗い廊下を肩で風切りながら歩き回るが、何も起こらない。

口には出さなかったが、内心は恐怖でいっぱいだった斎藤さんは、ダイキさんの荒々しい廃墟への挨拶に、むしろ勇気をもらっていたという。

だが、問題はここからだ。このホテルで幽霊が出ると言われているのは、2階最奥の部屋だ。ここではまだホテルが経営している時に女性の首吊り自殺があり、それ以降、幽霊が出るとの噂が絶えないらしい。

1階と同じ調子で2階も進んで行くが、さすがに噂の部屋に入る際は、2人に緊張が走る。

ギィーー……

半開きになっている扉を押すと、鈍い音が室内に響く。すえたような黴臭かびくささが鼻腔を刺激し、軽い眩暈めまいがする。

「ここヤバくねぇか? 他と雰囲気違うぜ?」

「お前が幽霊出ると思っとうけん、そう感じるったい」

ボコッ!

ダイキさんは斎藤さんを勇気づけるように、ベッドに強烈な蹴りをお見舞いした。

(ほぉ、こいつホント怖くねぇんやな!)

ダイキさんの恐怖を微塵みじんも感じさせない立ち振る舞いに、ますます勇気をもらった斎藤さんは、今日は何が出ても大丈夫。そう思っていたそうだ。

トットットッ……

「ん?」急に、2人の頭上から足音が聞こえてきた。ホテルTは2階立てで、この上へと続く階段などは見当たらなかった。

「猫でもおるんかな?」

ドッドッドッ

「え?」さっきよりも音が大きくなっている。

ドン! ドン! ドン! ドン!

小動物なんかではない。部屋の天井を激しく殴りつけるような音が、2人に襲い掛かるように響き続ける。

「うるせぇ!」

ドコッ!

ダイキさんは先ほどと同じようにベッドを蹴りつけた。その瞬間、部屋には静寂が戻る。

フゥと溜息を付き、安堵の表情を見せるダイキさんだったが、まだ終わってはいなかった。

「ヤサシクシテ」

ボソッと、2人の間から耳に吹き付けるようにして、腐臭を伴う声が届いた。

声を聴くなり、ダイキさんは今まで見たこともない速さで出口に向かって走り出す。

(えっ! 嘘やろ?)

置いて行かれた斎藤さんも、必死になって出口を目指して走る。

2人は車に乗り込むと、一目散に逃げ去ったそうだ。

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