【長編】モザイクの女(福岡県京都郡苅田町) | コワイハナシ47

【長編】モザイクの女(福岡県京都郡苅田町)

モザイクの女 (福岡県田川郡)

この話は、私と一緒に心霊スポット探索をしているヒョウという後輩が、中学校の修学旅行で、「英彦山」近くの某宿泊施設に泊まった時に体験した話だ。

もともと英彦山は山伏の修行場であり、羽黒山(山形県)・熊野大峰山(奈良県)とともに「日本三大修験山」に数えられ、そのせいか霊的な噂の絶えない場所でもある。

数年前にも、某高校の生徒が英彦山から帰ってきて集団ヒステリーを起こした! という情報がネットを賑にぎわせたこともあるが、今回はその話ではない。

ヒョウが泊まった施設には、各地でよくあるような幽霊話が言い伝えられていたそうだ。

なんでも、昔この施設で研修中に首を吊った女性がいて、夜になると、その女の霊が施設内を徘徊するという。

行きのバスの中でこの話を聞いて、女の子達はキャーキャー怖がっていたそうだが、ヒョウ達は逆に盛り上がってしまって、夜は肝試しでもしようかなんて話になっていたそうだ。

そこまで聞いて、せっかちな私は早速ヒョウに聞いてみた。

「結局、幽霊は出たと?」

「出たそうです。これは2日目の朝に聞いた話なんですけど、その前の日の夜に、女子の大部屋の中で1人の女の子が号泣しているのを同じ部屋の子が見つけて、なかなか泣き止まないから先生を呼んだそうなんです。そして少し落ち着いたところで話を聞いてみると、その子は夜中にパっと目が覚めて、今何時だろうと思って時計を見ようとしたそうなんです。すると、部屋の真ん中に白い服を着た女が立ってる。あれ? 他の子も起きてたのかな? そう思って目を凝らすと、顔だけモザイクがかかったようになっていて見えない。それで、幽霊だ! と思って泣き出したそうなんです」

「うーん、本人は怖かったやろうけど、普段とは違う環境になったせいで、怖い夢見た可能性もあるけんねぇ」

「そうですよねぇ。でも、俺はそれホントに見たんじゃないかと思うんですよ」

「え? どうして」

「いやね、俺、実は女の子達が騒いでいたのと同じ時間帯にたまたまトイレ行ってたんですよ。そこで変なことありましてね……」

そう言って、今度は自分の体験談を話し始めた。

夜中に目が覚めたヒョウはトイレに行きたくなって、大部屋をこっそりと抜け出したそうだ。

部屋を出る前に時間を確認すると深夜2時くらいだったそうで、まわりはもちろん全員寝ていて、寝息だけが聞こえるような状態だった。

トイレまでの暗い廊下を歩いていると、バスの中で聞いた女の霊の話が頭をよぎり、恐ろしくなってくるが尿意はどうすることもできない。

恐る恐る進んでいき、ようやくトイレの入り口に着いたところで、電気のスイッチに手を伸ばしてカチッと押したのだが、どういうわけか電気は点かない。

何度かカチカチと押し込んでみるも、全く反応しない。

(まいったなぁ)とは思ったものの、トイレの一番奥にある小窓からうっすら月明かりが差し込んでおり、電気をつけなくても少しは見える状態だったので、ヒョウはそのまま用を足すことにした。

小便器の前に立って用を足し始めると、自分の真後ろにある大のほうの扉がバン! と閉じた。

一瞬ビクッとしたそうだが、(誰かが俺の後をついてきて脅かそうとしよるんやろう)そう思ったヒョウは、正体を突き止めてやろうと思った。

閉まっているドアをよく見ると、鍵の部分が青色だ。

(あ〜、これ入った奴が押さえとうだけやな)そう思って、取手の部分に手をかけてグーっと押し込む。しかし、向こうも必死になって中から押さえつけているのか、1、2cmは扉が中に沈み込むものの、そこから押し戻されてしまい、なかなか開く気配がない。

(ふざけやがって!)段々頭に血が上ってきたヒョウは、体重をかけて思いっ切り押し込んだ。すると、中から扉を抑えつけている力が一気に抜けて、扉がグワァ! と開いたが、中を見ると誰もいない。

その瞬間血の気がひいて、(ヤバい!)と思ったヒョウはトイレから出ようと走り出した。しかし、トイレを出る直前に、手洗い場にかかっている鏡を見て足が止まった。

何かが自分のすぐ後ろに立っている。

しっかりと顔を鏡に向けて目を凝らす。

そこには、ぼさぼさの長い髪を垂らして白い服を着た女がいた。

なぜかわからないが、顔だけはモザイクがかかったようになっていて、どんな顔なのかわからない。

そこで、ヒョウは気を失った。

数分経って、はっと我に返るとトイレの床に倒れていることに気付いた。

そこで、自分は幽霊を見て気を失っていたことを思い出し、急いで部屋まで逃げ戻ったそうだ。そして、部屋で時計を確認すると2時10分だった。移動と、用を足したりしている時間を考えると、5分ぐらい意識を失っていたことになる。

そこからは恐怖で布団を頭からかぶってガクガク震えながら朝を待って、朝になって女子とも合流しだしてから、昨日の女子の幽霊騒ぎを聞いたそうだ。

そしてその、女子の幽霊騒ぎが起きた時間も2時頃だったそうだ。

ヒョウは最後にこう言って話を締めくくった。

「あそこはね、ホントに夜になったら女の霊が徘徊しているんですよ」

空き部屋(福岡県京都郡苅田町)

〜モザイクの女2〜 京都郡苅田町

前話、『修学旅行の夜』の出来事から数日後の話だそうだ。

ヒョウは一軒家の2階に住んでいる。その家は祖父の持ち家で、1階部分は貸し出していたのだが、最後に住んだ人が出て行ってから、もう数年間空き家の状態が続いていた。

祖父は寛容な人間だそうで、空き家になってからは鍵も閉めずに窓を少し開けた状態にして、猫の寝床として無料で貸し出して?いたそうだ。

さらに毎日1回、キャットフードと水も用意して、猫たちが何不自由なく暮らせるよう、万全の態勢を敷いていたという。

その猫たちの餌やりはヒョウの仕事だった。1階はブレーカーを落とした状態にしていたため、学校から帰るとすぐ、暗くならないうちに猫の餌を運んでいた。

その日もいつものように学校から帰ってくると、キャットフードと水を持って1階の猫たちの元へ向かう。

1階玄関から入ってすぐの襖を開けると和室があり、そこが猫スぺースと化している。和室の真ん中には大きな鏡台がドシリと置かれており、窓際の餌置場まで行くには鏡台前を通らなければいけない。

ついこの間の修学旅行のせいで、鏡を見るのは嫌で仕方がなかったそうだが、あいにくその部屋にあるのは蓋がないタイプで、前を通ると必ず自分の姿が映し出される。

(可愛い猫のためや)

勇気を振り絞り、絶対に鏡台を見ないようにしながら窓際まで餌を届ける。足元には数匹の猫が寛くつろいでおり、ヒョウの足に体を擦りつけたりしてくる。それを見ていると、恐怖心が吹き飛び、思わず笑みがこぼれるのだという。

猫たちと一時の癒しの時間を終えると、ヒョウは2階に戻ろうと玄関に向かって歩き出した。

「ヴヴヴゥゥ、シャー!」

突然背後から猫たちの威嚇音が聞こえてくる。

「どうした?」

反射的に後ろを振り向くと、鏡が視界に入る。そこで凍り付いてしまった!

ぼさぼさの長い髪を垂らして、白い服を着た女が自分の後ろに立っている。そして、顔にはモザイクがかかったようになっていて見えない。

「うわぁ!」

ヒョウは叫び声をあげると部屋を飛び出した。

自分の後ろに立っていたのは、先日の宿泊施設で見た女に間違いない。猫たちは女に向かって威嚇していたのだろう。

それにしてもなぜ『ここにいる』のか?

考えれば考えるほど恐怖は増していき、体の震えが止まらなくなる。2階に戻ると、先ほどの声は何だったのかと母親から聞かれたが、『幽霊を見た』とは言えず、その場をごまかしたそうだ。

それ以降は、もうさすがにあの鏡台の前を通ることができなくなり、母親に餌やりを代わってもらったそうだ。

つかれる(福岡県京都郡苅田町)

〜モザイクの女3〜 京都郡苅田町

ヒョウが心霊探索メンバーになって半年ほど経つが、私と一緒に心霊スポットに行くようになってから、家で様々な怪奇現象が起こるようになったというのだ。

まず家の外に設置している赤外線センサーライトから始まった。

ヒョウが住んでいるは2階建ての一軒家であるが、家の玄関脇には防犯のために赤外線センサーライトを設置している。

ヒョウの部屋からは、夜にライトが付くと外が明るくなるのでわかるらしいのだが、心霊スポットに行くようになってから、夜になると頻繁ひんぱんにライトが点くようになったという。あまりにもしょっちゅう点くので、気になって外を覗くこともあるそうだが、そこには何もいない。最初はそれだけだった。

しかし、心霊スポット探索を続けていくうちに、センサーライトだけでは済まなくなってきた。

ライトが点いたときに、女の人の声が外から聞こえるようになったというのだ。パッとライトが点いたと同時に「フフフ」と外から笑い声が聞こえてくるので覗くが、誰もいない。毎回ではないのだが、たまに笑い声は聞こえるそうである。

センサーライトが点くようになったからと言って、ヒョウが心霊スポット探索をやめることは無かった。

私のことを慕ってくれており、「濱さんが行くならどこでも付いて行きますよ」そう言って、毎回探索に来てくれている。毎回来てくれていることはありがたかったのだが、私には1つ気になることがあった。

まだ20歳そこらということもあるのかもしれないが、ヒョウは少し口が悪いところがあったのだ。

私の考えとしては、霊はいると思っているので、挑発するようなことはせずに、『真摯な態度で霊と向き合う』これをモットーに毎回探索を行っているのだが、ヒョウは心霊スポットで霊に対して挑発的な発言をすることがたまにある。

例えば、長埼の自殺の名所で、ヒョウが自殺者を馬鹿にしたような発言をした後に、カメラに不可思議なものが映り込むということもあったし、福岡の菅生の滝では、ヒョウの体に蛇のような光が入り込んでいるかのような映像が撮れてしまっている。

このまま挑発を続けると、ヒョウに何かとんでもなくヤバいことが起こるのではないかと心配していたのだが、予想通り、事態は悪化の一方だった。

それからも、心霊スポット探索にはヒョウも毎回来ていたのだが、顔色がどんどん悪くなっていっているように見えた。四六時中鼻血を垂れ流しているし、ずっと風邪のような症状が治まらないのだという。仕事でもミスを連発しているらしく、周りからはクビになるのではないかと囁かれていた。

そんな中、ある日の深夜にヒョウから連絡が入った。

「濱さん、ヤバいかもしれません。足音が聞こえて眠れません!」

「マジで? ビデオで撮れよ! 笑」

こいつなら大丈夫だろうと私は面白半分で返信したのだが、その後は連絡が返ってこなかった。

後日、ヒョウと話す機会があったので、先日のことを詳しく聞いてみると、どうも大変な目にあっていたようだ。

毎晩遅い時間までDVD鑑賞をするのが日課になっていたヒョウは、その日も、自分の部屋でヘッドホンを付けてDVD鑑賞を楽しんでいた。

しばらくすると、家の中でタッタッタッタッと足音が聞こえる。最初は家族が起きているのかと思い、気にはしなかったそうだ。

しかし、それからもたまに足音がするので、気になって部屋の外に出ると誰もいない。部屋の外は電気も点いておらず、キーンと耳鳴りがするくらい静かだ。

そこで、気味が悪くなったヒョウは私に連絡したということだった。何かいいアドバイスでももらえるかと思ったそうだが、生憎私は霊能力者でも何でもないため、役に立つアドバイスなんて与えられるわけもなく、ただ冷やかしのような返信をしただけだった。

そこから2時間ほど経った頃、再び足音は聞こえてくるが、部屋の外に誰もいないであろうことはわかっているので、もう確かめることはしない。

しかし、部屋の電気を消して寝ようとすると、『足音の主』が部屋に入ってきそうな気がして、怖くて眠れない。

ソファの上でひたすらDVDを見続けていたのだが、次第に睡魔が襲ってくる。うつらうつらしていると、いつの間にかDVDが終わっていることに気が付いた。ヘッドホンからは音が聞こえてこないし、画面は止まったままだ。

DVDを取り出そうかとデッキに手を伸ばし、画面をよく見た瞬間、体に電流が流れたような衝撃が走り、動けなくなった。

テレビ画面に映っているのは、DVDとは全く関係のない女性の上半身だ。そして、顔はモザイクがかかったようになっていて見えない……

「あぁぁぁ!!」

ヒョウは叫ぶと両親の部屋に飛び込んだ。その日は、10年ぶりぐらいに両親と一緒に寝たそうだ。

その後、ヒョウとは連絡が取れなくなった。

ヒョウと同僚の心霊メンバーに聞いてみると、携帯が壊れて連絡が取れなくなっているとのことだった。

私は、次の心霊探索の予定が決まったので伝えてくれと頼んだのだが、ヒョウからの返事は、

「濱さんと行くと、つかれるからもう行かない」だったそうである。

疲れる、か、憑かれる。どちらなのだろうか?

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