ウシガエル (福岡県遠賀郡) | コワイハナシ47

ウシガエル (福岡県遠賀郡)

中西さんと私はジムで出会った。

最初は顔を合わせると筋トレ話に花を咲かせていたのだが、ひょんなことから、バス釣りも筋トレに負けず劣らず力を入れているということを知って、そこからは時折、釣りの話でも盛り上がるようになった。

そんなある日、中西さんが通っている「遠賀川」という、九州で唯一鮭が遡上する川にて恐ろしい体験をしたという話を聞かせてもらった。

遠賀川はバス釣りの名所で、定期的に釣り大会が開かれているため、中西さんも休日になると足繁く通っていたそうである。

基本的に中西さんは1人で釣りをすることが多く、この日も広大な珂川で自由自在に釣りをしていた。

季節は秋ということもあり、冬前の荒食いに入っているようで、パターンを掴んでからは面白いように釣れてくる。ある程度の釣果を得てからは、ここぞとばかりに普段使わないようなルアーを使い、自然の中で釣りすることを楽しんでいた。

秋風は心地よく吹き抜けていき、ロッドを振り続けている内にジワリと汗ばんできたTシャツを乾かしてくれる。深く深呼吸をしながら、乳酸の溜まってきた腕をグイと上に伸ばしきる。最高の休日だ。

感傷に浸っていると、目の端にフッと映るものがある。近くのウィード(草むら)から、小さくて白いプヨプヨとした足が付き出ている。

(ウシガエルか?)

この辺ではよく「グモォーグモォー」と牛のような声が聞こえてくる。姿を見ようと近づいても、奴らは敏感で、すぐに水中に泳ぎ去ってしまうため、直接出くわすことはあまりない。

(いっちょ脅かしてやるか)

子供心に戻った中西さんは、近くから手頃な石ころを持ってくると、ウシガエルに向かって軽く投げた。ブッという嫌な音とともに、ウシガエルの周辺には赤黒い液体が少しずつ流れ出す。

(えっ? 死んで腐っとったと?)

石の衝撃でカエルはクルリと向きを変え、白紫に膨れた腹側を上にして、手足をピンとのばした状態でぷかぷかと浮かんでいる。

「うわっ!」

思わず声が漏れたそうだ。ウィードの中でプカプカと浮いているそれはカエルではない。どうみても乳児だ。

水草に引っかかっていたのが先ほどの投石で浮き上がってきたせいで、周囲には甘酸っぱいような嫌な臭いが漂ってきている。

(マジかよ!? 警察に連絡せないかん!)

ポケットから携帯を取り出しながら乳児を眺めていると、急に水面に浮かんでいる乳児が動き出した。

(え?)

絡まった水草を掻き分けるようにして、ほんの少しずつではあるが体をウネウネとよじりながら本流へと向かっていく。中西さんは呆気あっけにとられてその様子を眺めていた。

いよいよウィードから抜け出すと、「ウギャー!」と一言発し、流れの中に消えていった。もうこれでは捜索は無理だろうと、中西さんは通報するのをやめたそうだ。

「普通に考えたら、人形か何かを見間違えたと思うんよね。でも、最後に泣き声はちゃんと聞いたっちゃんね」

それ以降、中西さんはウィード周りを攻めるのはどうも抵抗があるのだと言う。

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