十三佛 (福岡県八女郡) | コワイハナシ47

十三佛 (福岡県八女郡)

もう10数年前の話だそうである。

当時、職人見習いをしていた田中さんは、同じ見習い生たちと下宿生活を送っていたそうだ。

休みの前日になり、今日の夜は皆でどこかへ出かけようということになって、飲みに行くもいいし、ナンパするもいいし、どうしようか? となったのだが、なぜか心霊スポットに行くことになったのだという。

福岡には有名な心霊スポットがいくつかあるため、多少は揉めたそうだが、一番下宿からの距離が近いということで、八女の「十三佛」に行くことに決定したそうだ。

辺りが暗くなってくると、待ってましたとばかりに車に乗り込み、4人で十三佛に向かう。

細い坂道の下に車を停めると、そこからはライトを持って、辺りを照らしながら竹藪に囲まれた道を進んで行く。

しばらく歩くと、暗闇の中に階段が見え、そこを登ったところに数体の苔むした石仏が見える。本来は人間を守り導いてくださるありがたい存在であるが、田中さん達は、暗闇に佇むその姿に言いようのない恐怖を感じたそうだ。

さらに先へと進むと、道沿いにいくつかの石仏が鎮座しており、中には心無い悪戯を受けて首が折れてしまったものもある。それらを見る度に息を飲みながら、鼓動が早くなるのを感じつつも、吸い込まれるようにして突き当りにある洞窟へと足は進む。

「おい、あれ見ろよ」

仲間の1人がゆっくりとライトの光を上にあげていき、ポッカリと口を開けた洞窟の入り口を照らし出す。ライトの光に驚いたのか、数匹の蝙蝠こうもりが闇から飛び出し、田中さん達を驚かせる。

「すげぇな」

「俺入れんっちゃけど……」

口々に弱気な発言を繰り返すが、ここまで来て洞窟の中を見ずに帰るわけにはいかないと、大の男4人で横並びになり、ピタリとくっついて一歩一歩洞窟に近づく。

中ではまだ蝙蝠が飛び回っているのか、不気味な羽音が洞窟内に反響しており、余計に恐怖心を煽あおる。

ようやく内部へ潜入する階段へとたどり着いた一行は、そこから見える異界ともいえるような景色に圧倒された。洞窟内の道の両側には、元々なのか、悪戯なのかはわからないが、着色されたカラフルな石仏が数体並んでおり、それらに挟まれるようにして汚れた椅子と机が置いてある。

「いやいやいや、マジ無理!」

「せっかく来たっちゃけん、入ろうや」

そうした押し問答を繰り広げていると、バンッ! 洞窟内に音が響いた。

一斉にそちらを振り向くと、先ほどまでは立っていた小さな椅子が倒れている。もちろん田中さん達以外に人はいなかった。

「うわぁー!!」

1人が走り出すと、それに釣られて全員車を目指して駆け出した。

足場の悪い山道を転びそうになりながら走り抜けると、我先にと車に乗り込み、下宿へと戻ったそうだ。

下宿に着くと、まだ女将さんは起きており、何やら興奮している田中さん達に向かって話しかけてきた。

「どっか遊び行っとったとね?」

「はい。心霊スポット行ってました」

「ヤダ、気持ち悪い……連れて帰ってきてないやろうね?」

「多分大丈夫ですよ」

挨拶程度に会話を交わすと、4人はそれぞれ部屋に戻った。

翌日、田中さんは女将さんと会った際に、こう話しかけられた。

「昨日は、あの後皆で飲みよったみたいね」

「えっ? 皆そのまま部屋に戻って寝ましたよ?」

「ちょっとやめてよ。だって、森君の部屋にゾロゾロと人が入って行くの見たっちゃけん……」

「いや、そんなはずはないですね……」

森君とは、十三佛に一緒に行っていたメンバーの1人だ。話していて、2人ともなんだか気味が悪くなってしまい、すぐに会話は途切れたそうだ。

そしてまた翌日、この日から仕事のはずの森さんの姿が見えない。上司に聞いてみると、具合が悪くて休んでいるとのことだった。先日の女将さんの言葉も気にはなったが、偶然だろうと深く考えないようにしたそうだ。

しかし、その翌日も森さんは職場に顔を出さなかった。まだ体調が優れないのだという。

「あいつ祟られたっちゃないと?」

皆で噂しあったが、結局真相はわからないままだ。明日仕事に来なかったら、部屋に様子を見に行こうということで話はまとまった。

次の日も、やはり森さんは仕事を休んだ。

これはただ事ではないと、その日の仕事終わりに、十三佛に一緒に行った残りの3人で森さんの部屋に向かったそうだ。チャイムを押しても出ない。

ガンガンガンガン!

「森! 田中やけど、開けてくれんか?」

中にいるのはわかっているので、ドアを少し強引にノックし、森さんの反応を待つ。しばらくすると、ヒタヒタと足音がこちらに近づいてくる。

「おぉ、田中達か。ヨシゾウかと思った。どうした?」

ドアを半分ほど開け、そこから青白くゲッソリやせた森さんが顔を覗かせて、話しかけてくる。

「は? ヨシゾウって誰?」

「あぁ、十三佛から帰ってきてから、ヨシゾウって名乗る爺さんが何回も部屋に来て、謝れってうるさくてね。あんまりうるさいもんやけん、すみませんでしたって言っても、謝れ! 謝れ! って埒らちがあかん。そのせいか具合も悪くなってきて、仕事行けんかったっちゃんね」

(何言いようとやこいつ? 熱で頭おかしくなったか?)

訝いぶかしげな顔で話を聞いていた3人だった。

というのも、森さんが住む下宿はそんなに広いものではなく、普段見ない老人が何度も詰めかけていたら、誰かしらが話題にあげるはずだ。しかし、そんな話は、この3日間1度も聞いたことがない。

「今日はヨシゾウ来た?」

「うん。ドアの前にずっとおるんやないかと思うぐらい、しょっちゅうしょっちゅう謝れって怒鳴りようし、お前たちが来る直前まで声聞こえよったけど、見らんかった?」

そんな人物は誰も見ていないし、謝れという怒鳴り声も聞いたことがなかった。

話を聞いているうちに、段々と不安は増してくる。この男、体調がどうこうよりも精神の方に問題があるのではないか。3人がそう思い始めた時、

「謝れ!」

森さんが叫んだ。

「ヤベッ! またヨシゾウ来た!」

自分で叫んだあと、その自分の声をヨシゾウだと言って、森さんはドアを無理やり閉めると、鍵をかけて部屋に閉じこもってしまった。

「謝れ! 謝れ! 謝れ! 謝れ!」

部屋の中からは、森さんの怒鳴り声が聞こえてくる。さすがに気味悪くなった3人は、そのまま女将さんのもとに向かい、今起こった出来事を話した。

「あんた達がいらんことするけんよ! 心霊スポットとか行ってから……」

気味の悪さと、どうしていいのかわからないという焦りからか、女将さんは声を荒げた。

「もうあたしじゃどうにもできんけん、ご両親に連絡とってみるね」

そう言われ、3人は不安な気持ちを抱いたまま、それぞれが部屋に戻った。

翌日もやはり森さんは仕事に来なかった。上司にそのことを聞いてみると、渋い顔でこう答えた。

「あいつ、今日ご両親が迎えに来て、実家帰るみたいやな」

「えっ?」

「昨日、電話受けた両親が会いに来たらしいけど、ヨシゾウがヨシゾウがって言って泣き喚わめくらしくて、もうこれじゃ仕事は無理だってことで、今日連れて帰るらしいぞ」

そのまま森さんはきちんと挨拶することもなく職場を去った。女将さんの話によると、両親と一緒に部屋を出る際には、怒鳴り続けていたという。

「謝れ! 謝れ! 謝れ! 謝れ!」

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