隔離部屋 (福岡市中央区) | コワイハナシ47

隔離部屋 (福岡市中央区)

マンション暮らしの山下さん宅には隔離部屋があるそうだ。

4歳の子供を保育園に預けて、夫婦共働きの生活を送っているのだが、2人とも仕事の都合で突発的な休みを取ることがとても難しかったため、家族で少しでも体調を崩した人間は隔離部屋行きとなり、トイレ以外では出ることを許されなかった。

6畳の隔離部屋の中には、ここで過ごす際に寂しくないようにと様々な人形が置いてある。

人形は奥さんの趣味で集められたものだが、1人で人形に囲まれ、たくさんの視線を感じながら眠りにつくというのは、山下さんにとって些いささか気味の悪いものであったという。

それほどまでに体調には気を使っていた山下さん一家であったのだが、数年間、長期休暇中に旅行には行くことができなかったそうだ。

というのも、長期休暇になると必ず家族の誰かが体調を崩すのだという。

最初は、普段気を張っている分、休みになると一気に出る気の緩みのせいだなんて言って笑っていたのだが、それが毎回、しかも、数年続くとさすがにおかしいと思い始めた。

ある時、友人に長期休暇中の体調不良について話したところ、その友人がお世話になっているという赤坂の高名な占い師、タマキさんを紹介してもらえることになった。

タマキさんは一見さんお断りで、紹介でしか人を見ることはないのだが、タマキさんの力が必要な人とは必然的に出会うようになっているのだという。

占いの予約日、タマキさんのもとを訪れた家族3人は、向かい合うようにして椅子に座ると、これまでの経緯を話した。

「うん、うん、見えるわ。そうね、その隔離部屋の中に茶色と白の人形がない? 耳が大きいやつね」

「えーと……あっ、あります!」

「そうでしょう。その子が寂しがって、わざと家族を引き留めてるの」

「えっ? じゃあ、どうすればいいんですか?」

「日頃から、出かけるときはその人形も連れていくようにして、もちろん長期休暇も一緒に行くようにすれば大丈夫。あと、休みが近くなったら、一緒に連れて行くからねってことを伝えてあげてね」

「はい、わかりました」

正直、半信半疑なところはあったそうだが、とりあえず外出する際は、なるべくその人形も連れて行くようにし、長期休暇前には、その人形に「連れて行くからね」と話しかけてみたそうだ。

すると、不思議と次の長期休暇には家族の誰も体調を崩すことはなく、無事に人形と一緒の旅行を楽しむことができたのだという。

その人形とは、1984年に公開されたアメリカ映画の「グレムリン」に出てくる、モグワイの人形だそうである。

十六 ばってん (福岡県北九州市)

この話は、福岡県警OBである坂田さんから聞いた話だ。

「私の仕事ってね、一般的な人から見ると、犯罪者を捕まえたりするのが大変だろうなと、そんなイメージを持つ方が多いと思うんですね。でも、何が一番キツイかっていうと、ご遺体の回収ですよ」

坂田さんは岩のように大きな体に似合わない、とても丁寧な口調で話し始めた。

「これはね、私が配属されて2年目の新人時代の体験なんですが……」

ある日、北九州の某海岸に人が打ち上げられているとの通報を受け、坂田さん達は現場に向かった。

坂田さん達が扱うご遺体は、事件死や事故死だったりするわけだが、状態がよくないものも多々あるそうで、その中でも強烈なのは水死体。水を吸ってブクブクに膨れ上がっており、強烈な匂いを放っている。

この時も海岸と聞いて、正直億劫おっくうになった。

回収は、クレーンなどで吊るすわけではなく、手袋とマスクを装着して人力で行われる。しかも、その日のメンバーでいうと、一番若手である坂田さんが回収に当たるということは容易に想像がついた。

現場に到着し、小さく深呼吸をすると、これは仕事だと自分に言い聞かせる。装備を確認してご遺体に近づくと、長い間海を漂っていたのか原形を留めてはいなかった。

まず死体袋を横に置いて、その中に入れる為、坂田さんはご遺体の脇にズルッと自分の腕を差し込み、ゆっくりと持ち上げる。すると、背中にピリッと衝撃が走った。

(筋を痛めたかな?)と思ったそうだが、いきなり手を離してご遺体を落とすわけにもいかないので、痛みをこらえて何とか無事に回収を終え、寮に帰った。

そういう回収作業があった日は、自分の体にまで匂いが染みついているような気がするそうで、坂田さんはすぐに浴室へと向かった。

服を脱ぎ、先ほどの背中の痛みが気になったので、ふいと顔を後ろに向けて鏡を見ると、背中の真ん中が大きく『ばってん』の形に、赤く腫れていることに気づいた。

「あれ、なんやこれ!?」

よく見ると、片方が4本、もう片方が5本の細い線が集まり、大きなばってんになっている。

それを見て坂田さんは、わかったのだという。

その日に回収したご遺体は、魚に食べられたか何かで片方の親指が1本なかった。なので、それはきっと坂田さんが持ち上げると同時に、向こうもしがみついてきていて、『背中に爪を立ててそのままズルッと滑り落ちた』かのような跡だった。

「家に帰りたいっていう、強い思いがそうさせたのかな」

坂田さんは寂しそうに呟いた。

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