メール(福岡市西区) | コワイハナシ47

メール(福岡市西区)

私がもう10年近く通っている美容室が福岡市西区にある。

これはその美容室のオーナーである、重田さんから聞いた話だ。

重田さん一家は10年ほど前からある異変に悩まされていたそうだ。その異変というのは、家の中の誰もいないところから音がするのだという。

特に頭を悩まされていたのは奥さんで、重田さんのお店は自宅と美容室が一体になっているのだが、奥さんが1人でいるときに限って、まるで狙い撃ちにしたかのように音が鳴り出すそうだ。

もともと奥さんは、いわゆる霊感の強い方だそうで、今までにも不可思議な体験というのはたくさん経験があるとのことだが、この現象で一番被害を被こうむっていたようだ。

具体的にどんなことが起きているかというと、重田さんの美容室は1階の半分が店舗、もう半分と2階が住居になっているのだが、店が休みで、奥さんが1階に1人でいると、

ダダダダダッ!

2階を誰かが歩き回る音がする。重田さんは出かけているし、子供たちは学校に行っている。嫌な汗を手ににじませながら、柄の長いホウキを武具のように構えて、恐る恐る2階へと続く階段を上がっていく。

扉の前に来ると、一気に胸の鼓動が高まるのを感じつつも、ドアノブに手を伸ばし一気に開け放つと、ホウキの柄の先端を部屋の中に向かって突き付けた。

しかし、そこには誰もいない。おかしいと思って押し入れの中などを全部開けて確認するが、人どころかネズミ1匹見当たらない。

他にも、奥さんがシャワーを浴びていると力強くドンッとドアを叩かれたそうだ。急いでドアを開けてもそこには誰もおらず、家族に尋ねてもそんなことはしていないという。

そういった現象が10年近く続いているというのだ。

そして、これは最近になってからのことだが、重田さんは偶然、知り合いから『霊能力者のような』方を紹介してもらえることになった。

『霊能力者のような』と書いたのは、その方は仮に谷さんとするが、谷さんは仕事で霊能力者をしているわけではないそうだ。普段は霊感とは無縁の職に就いているのだが、知り合いなんかで霊的に困っている人がいると、無償で力を貸しているという。

谷さん曰く、霊的な力を利用して金銭をもらうと『後ろにいる人』に怒られるのだという。なので、知り合いで、自分の力が必要な人に限定して力を貸しているという。

それで、重田さんはそんな方がいるというのをたまたま知り合いから聞き、谷さんと連絡をとるようになり、美容室に来てもらうことになったそうだ。

谷さんが来る前日になったのだが、この日もいつものように重田さんは店の入り口に置いてあるノートパソコンを操作していると、1通のメールが届いた。

ここで重田さんは首を捻ひねった。

そのメール、なぜかわからないが、送信者が自分のアドレスになっている。

不思議に思いながらもメールを開くと、本文は文字化けしていて内容はほとんど読めないのだが、辛うじて読める単語を2ケ所だけ見つけることができたので読んでみると、

「しょうこ」「ついた」

その2つの単語がひらがなで書いてある。

この「しょうこ」というのは重田さんの娘さんの名前である。

不気味に思った重田さんは、翌日来ることになっていた谷さんに、焦りつつも電話をかけ、今来たメールについて話した。

「それ明日私が来ること知ってるよ。早く行かないとマズイかもね。うん。危ないよ」

「じゃあもう、今日にでも来ていただけませんか?」

「いや、それが申し訳ないんだけど、今日は仕事で行けないんだよ」

「なら、明日までこのまま待てばいいんですか?」

「いや、今日のうちにやっといてほしいことがある。あなたの家の2階に、今まで音をたてたり、今回のメールの原因となったものがある。心当たりはあると思うから、それを私が来るまで家の外に出しておきなさい」

それを聞いて、確かに重田さんは思い当たるものがあったので、電話を切った後に急いで2階に上がり、押入れの奥から『あるもの』を取り出した。

その『あるもの』というのは、10年ほど前に重田さんの祖母から譲ってもらった日本人形なのだが、運ぶ途中に落としてしまい、腕と首が折れてしまっている。しかし、特に直したりもせずに、気持ちが悪いからという理由で外に出すこともなく、10年間押入れの中に仕舞いっ放しだったそうだ。

重田さんは(絶対にこれだ)と思い、人形を取り出したのだが、久しぶりに人形の顔を見ると思わず悲鳴を上げてしまった。

顔が変わっているのだ。

元々は微笑むような優しい顔つきだったのだが、今では目尻が吊り上がり、歯をむき出して怒ったような表情をして、まるでこちらを睨みつけているかのようだ。

そのあまりの形相に、重田さんは腕の震えが止まらず、顔を直視することができなかったため、1階にいる奥さんに向かって叫んだ。

「バスタオル持って来い!」

何やら尋常ではない叫び声を聞いた奥さんは、慌ててバスタオルを持ち階段を駆け上がった。

陸上のリレーのごとき速さでタオルを受け取った重田さんは、それを人形に巻き付けて、さらにその上からガムテープでぐるぐると縛り上げると段ボール箱に放り込んだ。そこからしばし沈黙が走り、重田さんの荒い息遣いだけが部屋に響いていたが、1〜2分経つと、もう大丈夫だろうと段ボール箱を恐々持ち上げ、ゆっくりと階段を下りて店の外へと人形を運び出した。

翌日、谷さんがやってきて人形を見るなり、渋い顔をして「やっぱり、この子入ってるよ」と一言いうと、すぐにお祓いの準備に取り掛かった。

お祓いが始まり、重田さん夫婦はじっとその様子を眺めていたのだが、谷さんは表情1つ変えずに手慣れた様子で事を終えたそうだ。

「とりあえずはこれで大丈夫」

そう言われて安心はしたものの、このまま人形を家に置いておくのは良くないということで、人形供養で有名なある神社に奉納して、それ以降、重田さん一家が悩まされていた音は一切しなくなったそうだ。

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