虫カゴの中(奈良県) | コワイハナシ47

虫カゴの中(奈良県)

奈良県でのことである。

Sさんが小学生だった頃の夏休み。ひとりで森に虫とりに出かけたが、この日はなかなか捕まらない。もう陽も傾きかけてきた。(ちぇっ)とばかりややくさっていると、田んぼのあぜ道のあたりを飛ぶピカピカと光る不思議なものを見つけた。近くに寄ってみると、それは銀色の発光体で、直径が十センチくらいの円形にカサがついている。ちょうど灰皿を逆にひっくり返したようなもので、それがぷかぷかと浮遊している。夕陽の日射しが強いのに、その銀色の物体の下には影がないのが不思議だった。

(これは何やろ?)

ぽつんと独り言を言いながら、えいっとばかり持っていた虫とり網をその浮遊物の上にかけた。意外に簡単にそれは網の中へ入った。そのまま網の根元をひねって捕獲に成功した。だがそれは別に下に落ちるでもなく、そのまま浮いている。

さて、どうしたものかと考えて、虫カゴの底を抜いて、そこからその浮遊物を入れた。そしてそのまま家に持ち帰ったのである。

家に帰ると、台所にお母さんがいた。

「おかあちゃん、変なもの捕まえたよ。これ何ていう虫?」

と聞くが、お母さんはあまりそんなことに興味がないようで、

「知らんよ」と見もしないで素っ気なく答える。

「ほら、ねえ、光ってるやん。何ていう虫?」

しつこくお母さんのエプロンをつかむと、お母さんはちらりと虫カゴを見て、

「窮屈そうやないの。逃がしてやり」と言う。

「だって」

「そんな変なもん捕まえてきて。何食べるかもわかれへんでしょ。逃がしてやりなさい」

お母さんがなおも言うので、Sさんは虫カゴの底を抜いて、そのままカゴをぽーんと庭に放った。すると虫カゴが地面に落ちる直前に、その銀色のものがカゴからピョンと抜け出すと、そのままものすごいスピードで、まだ明るい夏空へ向かって飛んでいったという。

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