父の名(東京都目黒区) | コワイハナシ47

父の名(東京都目黒区)

雑誌編集長のYさんが若い頃の話。

その日、徹夜が続いたせいか、頭痛がして熱っぽい。

疲れがたまったのかな、と思いながらそれでも仕事を続けるが、今度は寒けがする。

「どうしたの?顔色悪いよ」と、仕事仲間が心配してくれて、熱を測ってくれた。

高い。

「今日は帰った方がいいよ」と言われて、Yさんはその日は帰宅した。

その時Yさんは結婚して杉並区に住んでいたのだが、どういうわけか目黒にある実家に帰ってしまったという。Yさんが使っていた部屋は、今はお父さんが使っているので、二階の畳の敷いてある応接室に布団を敷いて、倒れ込むように寝た。

目が覚めた。

西日が射し込んでいるので夕方なのだろう。

と、寝ている足許からすうっと人が現れて、ふあーっと頭の方向へと飛んでくる。それがひとりやふたりではない。次から次へと何人もの人が、ふわりと出ては、飛んで、Yさんの頭の上のあたりにフッと吸い込まれる。その人たちは口々に「さとしやあ、さとしやあ」と言っている。さとしとはYさんのお父さんの名前である。そのほとんどが老人で、知らない人もいれば、亡くなったおじいちゃんやひいおばあちゃんもいる。

そんな情景が消えた。

それが夢だったのか、現実だったのか、どうも定かではない。でも確かに西日が窓から射し込んでいて、夢とも何とも断定できない不思議な感覚がある。また睡魔に襲われて眠ってしまった。

夜の九時頃、また目が覚めた。

もう頭痛も治まり熱も下がったようなので、起きて隣の部屋を覗のぞいた。お父さんが仕事から帰って部屋で寝ている。Yさんはそのままそっと階下へ下りてお母さんと話をした。

この時実は、父親の名前を呼びながら飛んでいた人たちのことは、すっかり忘れていたという。それでも九時に寝ているお父さんがちょっと心配で、「お父さん、こんな早い時間に寝てるようだけど大丈夫?」と尋ねたのだ。すると母親は「なんだか父さんね、最近疲れた疲れたって言ってるよ」と言う。

翌朝、Yさんは元気に出社した。

すると会社に電話がかかってきた。お父さんの妹にあたるK叔母おばさんだ。

「どうしたんですか」と聞くと「昨日さ、夢でさ、おばあちゃん出てきて、さとしが、さとしがって言ってんだけど、お父さん、何か具合悪くない?」と言う。Yさんはこの時、昨日の夕方に見た、ふわふわと飛んでいるひいおばあちゃんたちのことを思い出した。

「おばあちゃんて、僕のひいおばあちゃんのこと?そういえば僕もね……」

「えっ、じゃあ、やっぱり何かあるね。きっとお父さん病気よ。医者に診せた方がいいよ」とK叔母さんは電話を切った。

翌日、お父さんをかかりつけのお医者さんに診てもらった。

一週間後「白血病です。半年の命です」と診断された。そしてお父さんはそれからきっかり半年後に亡くなったのだという。

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