寮の鏡(三重県) | コワイハナシ47

寮の鏡(三重県)

興信所に勤めるHさんは、全寮制の学校で高校生活を送ったという。三重県の有名な私立の学校なのだそうだ。

その寮は、ずっと以前から怪談が先輩から後輩へと伝わり、いろいろな噂もあったという。現に校庭や寮のすぐ外側には墓地がある。それも古くは平家の落ち武者の墓から、明治の北海道を開拓した屯とん田でん兵へいの墓などもあったそうだ。周りに人家も少なく、真夜中ともなると学校や寮のあちこちが真の暗闇に包まれたという。

Hさんの在学中にも噂がたった。真夜中の校庭の闇の中に、子供を抱いた若い母親の幽霊が出るというのである。実際にそのことで何度か騒ぎがあった。

昼間は寮の窓から校庭が見える。だが真夜中になると外はただ真っ暗の闇があるだけだ。そこに、母子の姿があったという。

「ほんまにおる!」

と、それを目撃した何人かの学生が真夜中に騒ぎだし、寮中がパニックになった。

寮の管理をしているW先生が騒ぎを聞きつけてやって来る。

「何や、どうした!」

「先生、僕、幽霊見ました」

「アホ言うな!そんなものがあるわけないやろう」

「ほんまに見ました。暗闇のグラウンドに立ってます」

「しょうもないことで寮の生活を乱すな!」

と先生に怒られた。そんなことが何度かあった。

ある夜中、Hさんは夜中に寮のトイレに入った。

用を足して手を洗おうとふっと鏡に目をやると、自分のすぐ背中越しに赤ん坊を抱いた女が立っている。

「わあーっ!」と腰も抜かさんばかりに驚いて、どうやって部屋にたどりついたのか覚えていないという。ともかく友だちを叩たたき起こして「見た!見た!見た!……」とだけ言うのが精一杯である。

「どうしたんや!」

「Hが、例の幽霊見た言うてるぞ」と、また寮内にそれが伝わって騒然としてきた。

またまたW先生がやってくる。

「どうしたちゅうねん、あッ?」

「先生、見ました!トイレの鏡に幽霊が映ってました」

「またくだらん噂を流しやがって。ええかげんにせえ!」

とうとうW先生の怒りが頂点に達した。W先生はラグビー部の顧問をやっていて、ガッシリとした体育の先生である。「そんならわしが、そんなもんのおらんことを証明してやる!」と言ったかと思うと、寮監室の布団をトイレに運び込み「わしはここで寝る。そんなら妙な噂もたたんようになるやろ。よお覚えとけ!」と啖たん呵かを切った。

翌朝、トイレに行ってみると先生がいた。やはりここで一晩過ごしたらしい。と、これがあの豪傑先生か、というほど生気のないやつれた姿になっていた。トイレに入ってきた学生を見るなり「寮中の鏡を全部外せ!」と血相変えて怒鳴った。

その朝のうちに寮の鏡は全部外された。そして結局Hさんが卒業するまでトイレにも風呂場にも各部屋の壁にも、寮内にふたたび鏡がかかることはなかったという。

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