映るもの(東京都川崎市) | コワイハナシ47

映るもの(東京都川崎市)

女優Yさんの体験である。

七、八年前にある映画に出演した。なかば自主制作のような作品だったが、完成後は海外の映画祭のグランプリを取った作品である。

その撮影中のこと。

川崎市の二子新地の病院跡でロケをした。

木造のやけに古い建物で、廊下や階段の幅が異様に広く独特の雰囲気があったという。

現場のスタッフは六人ほど、出演者もこの時はYさんともうひとりだけの小人数だったという。

病棟の廊下での撮影。

Yさんが廊下の角に立った。

そのYさんを撮るため、スタッフは全員カメラの後ろに陣取って、スタンバイする。

と、廊下の向こう側に誰かがいる。

見たわけではないが、ただ煙草の煙がフッと廊下の隅から出ているのだ。

なぜかYさんは、それが腕組みをしながら煙草をくわえ、「ふんっ」と横柄な態度を取っている男の人だと思ったそうだ。横目でじろりとこちらを見ているような印象だったという。

(あらっ、スタッフが増えたのかしら……)とYさんは不思議に思ったが、その場所は本番になるとカメラに映り込んでしまう。

「映るよ、そこ」とYさんはその男のいる方に声をかけた。

すると煙草の煙だけがまた、こちらへフーッと吹きかけられる。

「身体隠れても、煙、こっちへ出てるよ、やめてよ」

と言うと、また、フーッと煙草の煙を吹きかける。

まるで馬鹿にされているようだが、そのうち本番になるとスタッフも注意するだろうし、そうなるとどこかへ行くだろうと思った。だが、本番になっても誰も何も言わなかった。そのはずである。そこには誰もいなかったからだ。

撮影シーンが別の場所へ移動した。

同じ病院内のある病室。

Yさんが床にペタリと座って、ピストルで遊ぶシーン。Yさんの背後には窓ガラスを上に押し上げるタイプの、古い造りの窓があった……。

「よおい、スタート!」

監督の声がとんで、カメラが回りはじめた。

編集作業の時のこと。

「あーっ、映ってんなーっ」と編集機を覗いていた担当者が声をあげた。

「何が?」と監督が聞くと「幽霊だよ」と言う。

フィルムの編集機に付いているのは小さな画面なので、それで幽霊がはっきりわかるというのはどういうものだろうと、ビデオモニターに映してみた。

Yさんの後ろに映っている窓。窓ガラスが押し上げられてそこには緑の木や空が見えるはずなのだが……、顔が映っていたのだ。開いた窓枠いっぱいの、巨大なふたつの目。目の間には鼻もある。その目が、壁にもたれているYさんの方に視線を下ろし、じっと見つめている。

Yさんもそれを見たという。

「うわっ、これ全部顔じゃない!」と思わず大声をあげてしまった。

その部分はOKカットだったが、本編から除外されているそうだ。

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