柿の木(兵庫県尼崎市) | コワイハナシ47

柿の木(兵庫県尼崎市)

私は幼い頃、父が勤めていた会社の社宅に住んでいた。

そこに汚水処理場ができることになり、社宅が取り壊されることになった。

社宅の裏庭に小さな柿の木があった。いっぱいに枝葉を広げた木で、秋になると大きな甘い実をたわわにつけた。

父は「社宅が壊されるのはしかたないけど、あの柿の木も一緒にほじくり返されるのはかわいそうやな。誰かにもろてもらおうかな」という話をしていた。

やがて引っ越したあと訪ねた時には柿の木はなく、そこに大きな穴が開いていたので、父が知り合いに柿の木を譲ったものだと思っていた。

その数年後、父が「あの柿の木、どこでどうしてるやろな」とポツリと漏らした。

「えっ、高槻のYさんのところにあるんと違うんか?」と私が聞くと、「ああ、それは違うで」と父は話しだした。

その当時のこと。高槻市に住んでいた父の知人が、だったらわしにその柿の木を譲ってほしい、と名乗り出た。ところが母が占いに凝っていたので、ある占い師にそれを相談したらしい。すると占い師は「この日に取りに来てもらいなさい」と日を指定したという。「その日以外はダメなんですか?」と聞くと、「この柿の木はこの土地から離れたくないと思っているから、その意思が働いている。きっとこの日以外にこの柿の木を持ち運ぼうとしても、うまくいかない。ひょっとしたら、その人と手伝いに来る人との間で、何か大きなトラブルが起こるかもしれない」と言う。ところが父は信用しなかった。高槻のYさんには「いつでも都合のいい日に取りに来ていいよ」と答えた。

そのYさんは父と同じ会社に勤めていた。同じ課にいる親しいMさんと一緒に、トラックを借りて柿の木をもらいに来ると約束した。

ところが約束した当日、午前中に来るはずが、待てども待てどもYさんは来ない。とうとう夕方近くになったので、思いあまって父はYさんの家に電話をしてみた。するとYさんが家にいる。

「何やってんだ?どうして取りに来ないんだ」

すると「取りに行って、実はすぐ近くまで行ってたんや」と言う。

「なら、何で帰ったんや」

「実はな、Mの奴と大喧嘩をしたんや。あいつの顔なんかもう二度と見ともない!」となんだか鼻息が荒い。

こんなことがあったという。

トラックをレンタルして、社宅のある尼崎市に向かった。その途中Mさんが、「何か手土産買っていかんとな」と言った。するとYさんは「わかってるわい。そんなん常識やないか」と答えた。と、

「なんやその言い方は!」とMさんが声を荒げた。

「そやから、お前に言われんでも、土産ぐらい買ういうてるんや」

「それにしても口のきき方いうもんがあるやろ」

「なんやと!」

そんなささいなやりとりがきっかけで、車の中で大喧嘩になってしまったらしい。

そしてとうとう「お前なんかとはもう口もきかんわ!」と互いに別れた。そしてそのままYさんは高槻市の家に帰ってしまったというのである。

これを電話で聞いた父が「そうか!そういや家内がそんなこと言うてたな」と気がついた。YさんとMさんは、当時あんなに仲がよかったのに、いまだにその関係は修復されていないらしい。

ところで柿の木は、確かに掘り起こされていた。

実は引っ越しのあと忽然とその柿の木が消えていたのである。誰が持っていったのかわからない。ただ、ゴッソリ根っこごと掘り起こされていたのである。

父が丹精こめて育てたあの柿の木は今どこにあるのだろうか。

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